交通事故被害に遭ったとき、身体の中心部分である腰は衝撃を受けやすいです。そのため、交通事故では腰をケガする確率が非常に高くなります。

同じ交通事故でも「歩行中に車に轢かれた」「車で停車中に追突事故に遭った」など、どのような状況であっても腰は痛めやすいといえます。

ただ、同じ「腰痛」といっても症状の内容は一人一人大きく異なります。このとき痛めたのは腰の筋肉なのか、それとも神経なのかを被害者自身も把握しておくべきです。

また、腰痛が完全に完治しなかったときは後遺障害として認定される可能性もあります。そうなると高額な慰謝料を請求できます。そこで、今回は交通事故のあとに発生した腰痛について詳しく解説していきます。

交通事故後に発生する腰痛の症状については個人差がある

腰の痛みは動く瞬間に「ズキッ」と痛みが出る場合や、立ち姿勢や座り姿勢が続いたときに鈍い痛みを感じる場合が多いです。それ以外では、臀部から足にかけてシビレが出ることもあります。

大まかな目安として腰の「痛み」に関しては筋肉の損傷している状態で、「シビレ」は神経を痛めているという認識で問題ありません。

どれだけの衝撃を受けたかで腰痛の重症度は変わりますが、基本的に神経を痛めてしまうと回復は遅い傾向にあります。また、バイク事故や追突事故なのかによっても腰痛の回復状況が違います。さらに、同じ追突事故であってもどれだけのスピードで追突されたかによっても重症度は変わります。

追突事故の被害者は腰痛の発生率が高い

バイク事故や自転車事故など、身体に直接衝撃を受けて発生したものであれば腰をケガするイメージはしやすいです。ただ、追突事故のように間接的に衝撃を受けた事故であっても腰痛になる確率は非常に高いです。

追突事故のように車同士の事故であっても、衝撃は全身に伝わります。腰の筋肉というのは背中や肩からつながってきますし、さらに臀部や足の筋肉とも密接な関わりがあります。

そのため、上半身・下半身のダメージはどちらも腰に悪影響を及ぼします。このようなことから、追突事故のように直接腰に衝撃を受けていなくても腰痛の発生率は高いものとなります。

事故のあと、腰の痛みが悪化することは多い

ただ、交通事故によるケガは事故直後から痛みが出ないこともあります。車同士の交通事故のように身体に対して間接的に衝撃を受けた場合、事故の翌日以降に痛みがでることが多いです。

事故直後というのは興奮状態にあるため、ケガをしていたとしてもその場では痛みを感じにくいことが理由として挙げられます。

特に多いのが、事故の翌日から1週間前後のあいだに痛みが徐々に強くなってくるケースです。もし、事故から数日後に腰の痛みや違和感が出た場合、すぐに病院で受診しましょう。

ただ、「あとから腰が痛いって言ったら不自然かもしれない」「慰謝料目当てだと思われそう」と思ってしまう人が多いです。その影響で通院するか迷ってしまう人がいますが、これは絶対に避けるべきです。

それは、事故発生から2週間を過ぎてから通院を開始しても、治療費や慰謝料が補償されないからです。事故から日にちが空いてしまっていることで、保険会社から「交通事故とは関係のないケガ」と扱われるからです。

このようなことから、もし事故から数日後に腰痛が発生したときは少しの痛みであっても病院で受診するようにしましょう。

交通事故の前から腰痛持ちでも主張が必要

腰痛は一般的に起こりやすい症状であるため、交通事故の前から腰痛持ちであることもあります。この場合、もともとあった腰痛であることから、交通事故で痛めたものだと言えるのかが問題となります。

結論を言いますと、「交通事故で発生した腰痛」と主張すべきです。もし、「もともと腰が悪かった」と病院や保険会社に伝えてしまうと、「今回の事故では腰を痛めていない」という扱いになります。

これでは、腰に後遺障害に該当する症状があったとしても、障害だと認定されなくなります。また、事故によってケガした部位が少ないという扱いになるので、軽症だと判断されて短期間で治療を打ち切られるリスクも高まります。

実際、もともとあった腰痛を数値や画像などで証明できるものではありません。そのため、「交通事故後に腰痛が悪化した」という内容で医師や保険会社に伝えるようにしましょう。

ただ椎間板ヘルニアなど、過去に腰を痛めていたものが画像や診断歴などによって残っていた場合であれば注意が必要です。

もし、腰を痛めていたことが過去の診断によって残っていた場合、慰謝料を減額される可能性もあります。ただ、一般的な腰痛のレベルであれば慰謝料に影響を及ぼすことはないので大丈夫です。

そのため、交通事故の前から腰痛持ちであっても気にせず、「事故によって悪化した腰痛」だと主張しましょう。

腰痛の治療期間は重症度によって大きく変わる

なお、同じ腰痛であっても治療期間は変わります。例えば、追突事故によって発生した腰痛であれば、追突されたスピードが早ければ早いほどダメージが大きくなります。

また、バイク事故のように直接衝撃を受けて発生した腰痛の場合、車同士で発生した事故よりも治療期間は長くなりやすいです。

腰痛が軽症であれば1〜3ヶ月程度で回復しますが、重症であれば6ヶ月前後もしくはそれ以上の治療が必要になることもあります。もし、交通事故から3ヶ月経過しても腰痛の症状が大きく変わらない場合、後遺障害が残る可能性が高いといえます。

腰痛で後遺障害を獲得するためには神経症状があるか検査が必要

後遺障害は1級〜14級に細かく分類され、それぞれの等級に決められた症状に該当する場合のみ認定されます。

腰痛で該当する後遺障害の等級は14級・12級のどちらかになります。14級は「局部に神経症状を残すもの」、12級は「局部に頑固な神経症状を残すもの」という基準があります。

要は、両者とも神経を痛めてシビレが残った状態です。ただ、いくら腰から足などにシビレが残っても必ず後遺障害認定されるわけではありません。

後遺障害の審査は自賠責保険調査事務所というところで行われ、審査員が認定して初めて等級を獲得できます。後遺障害の審査で最も重要なのは「他覚的所見」いう、「第三者が客観的に判断できるもの」が必要になります。

このときに必要なのは「どれだけ自覚症状を訴えるか」ではなく、「シビレを発生させている原因」を客観的に証明することです。

そこで、どのような検査をしてシビレを立証していくのかを以下で解説していきます。

足にシビレが発生したらMRI検査をすべき

神経症状を客観的に証明しやすいのはMRI検査になります。基本的に事故直後の通院時には、まずレントゲン撮影をすることがほとんどです。

例えば、太ももの裏から足の裏にかけてシビレが出た場合、腰から足につながる神経を痛めている可能性があります。このとき、レントゲンによる検査しかしていなかった場合、シビレの原因を証明することは難しいです。

それは、レントゲンは骨に異常があるかどうかを調べるのに効果的ですが、神経症状に関しては写りにくい傾向にあるからです。

このとき、MRI検査をすることで骨だけでなく「神経」「靭帯」などを含め、細かい部分まで画像に写ります。

上記の画像は腰のヘルニアによって神経を圧迫してしまっている画像です。このようにMRI検査をすることで、どの部分でシビレの発生する原因があるかを明確に把握できます。

そのため交通事故後の腰痛が悪化して、足にかけてシビレが発生した場合はすぐにMRI検査をすることが望ましいです。

ただ、医師がMRI検査について何も言って来ない場合があります。そのときは被害者自身で「後遺障害の申請時に必要な書類になる可能性があるのでMRI検査をしたい」という意向を伝えましょう。

ラセーグテスト(SLR)は角度によって陽性か陰性か決まる

なお、MRI検査以外にも神経症状を検査する方法があります。ただ、MRI検査のように画像で明確に解析できるものではないので陽性の場合は「神経症状がある可能性が高い」という、おおまかな目安を調べるものです。

まず、腰の神経症状を調べる方法としてラセーグテスト(SLR)というものがあります。流れとしては以下のようになります。

  1. 仰向けに寝る
  2. 片方の足を徐々に上げていく

このとき、足が30度よりも上に行かないところで、腰から太ももの裏あたりに痛みやシビレが出た場合、陽性反応となって神経症状がある可能性が高いです。その反面、足が上がっても特にシビレが発生しなかった場合は陰性となり、神経症状がない可能性が高くなります。

ラセーグテストで陽性反応が出ても必ず神経症状があるというわけではないので、もし陽性であればMRIで精密に検査をしましょう。

ブラガードテストの方法

同じく神経症状をテストするものにブラガードテストがあります。ブラガードテストの流れは、途中まではラセーグテスト(SLR)と同じになります。

ブラガードテストでは足を上に持ち上げた状態で停止し、そこからアキレス腱を伸ばすような形でかかとを下に押していきます。

足首の角度が変わったとき、腰から太ももの裏あたりにシビレが発生した場合は陽性となり、神経症状がある可能性が高いです。

FNSテストの方法

他には、うつぶせの姿勢で腰の神経症状の有無を調べるFNS検査というものもあります。流れとしては以下になります。

  1. 膝を90度の状態から上に持ち上げる
  2. 臀部を軽く下方向に押す

この動作の中で太ももの前面あたりにシビレが発生した場合は陽性となり、神経症状がある可能性が高いです。

腰痛で後遺障害の等級認定を受けるまでの流れ

後遺障害の申請をする場合は医師から「症状固定」という、「将来的に腰痛の回復見込みがない」と診断されたあとに手続きを進めていきます。

症状固定の診断を受けたあとは、後遺障害診断書というものを医師に作成してもらう必要があります。後遺障害診断書に具体的な症状を記載してもらい、MRI検査の画像があれば、それと一緒に自賠責保険調査事務所へ提出します。

審査が終わると「認定された場合」「非該当とされた場合」ともに書面で通知が届きます。そこには、どういった過程で審査をしたのかということが記載されています。

なお、交通事故による腰痛で獲得できる後遺障害等級は前述の通り14級か12級になります。ただ、12級で獲得できるケースはよほど重症である場合に限られるので、ほとんどは14級もしくは非該当のどちらかになると考えていいです。

後遺障害認定されるため、病院はいつまで通院すべきか

後遺障害として認定されるためには一定期間の通院実績が必要です。交通事故による腰痛で後遺障害認定を狙う場合、最低でも6ヶ月以上の通院実績が必要になります。

例えば、腰の神経症状を画像で証明できる状態であっても、通院期間が6ヶ月未満であればそれだけで後遺障害認定されません。

そのため、腰痛がひどくて後遺障害認定を狙う場合、必ず6ヶ月以上の通院実績を作りましょう。

治療期間3ヶ月で症状固定をしたら後遺障害認定はされない

ただ、腰の状態が悪くても保険会社は治療を打ち切るために圧力をかけてくることがよくあります。保険会社としては、できるだけ被害者への補償額を少なくしたいという考えが影響しているからです。

被害者が後遺障害認定を受けることでより慰謝料が増えてしまうため、3〜5ヶ月のあいだで治療を打ち切ろうとする担当者が大半になります。これは、6ヶ月未満の治療期間にすることで、後遺障害認定の可能性を潰すという意味合いが強いです。

よくあるパターンとして「骨に異常がない症状は3ヶ月が症状固定の目安になります」という言い方で、担当者は治療打ち切りに持っていこうとします。

もし、このような形で圧力をかけられた場合であっても、簡単に受け入れてはいけません。病院から「まだ治療が必要」だという根拠を保険会社に提示してもらって、通院を継続させる交渉をしましょう。

しかし、それでも強引に治療を打ち切ろうとする担当者に屈してしまう被害者もいます。このような場合は、すぐに症状固定の診断を受けたり、保険会社と示談を成立させたりしてはいけません。

治療が強引に打ち切られたあとは治療費を自己負担してでも通院を継続して、6ヶ月以上の通院実績を作るべきです。

例えば、「5ヶ月で治療が打ち切られたから、自分の健康保険を使ってさらに1ヶ月通院をする」というものです。たとえ保険会社の補償が打ち切られても、自分の健康保険を使って6ヶ月の治療期間に達すれば後遺障害申請ができます。

後遺障害として認定されると、最も軽い14級でも弁護士を通すことで110万円の慰謝料が支払われます。一方で健康保険を使えば1回の治療が数百円程度で済むことが多いです。後遺障害申請を視野に入れた場合、自己負担が生じる場合であっても6ヶ月の通院実績を作るといいです。

後遺障害14級・12級を獲得するために必要な通院日数

後遺障害14級もしくは12級として認定されるために必要な通院日数は、明確に「○日以上」と決められているわけではありません。

ただ、ある程度の目安はあります。大まかな認識として、毎月安定して最低10日以上の通院実績があると後遺障害認定の確率が高まります。理由として、通院日数が極端に少なければ審査員に「そこまで治療が必要ないケガだった」と扱われるためです。

このとき注意すべき点として、整骨院への通院は実績として考えない方がいいです。現在の法律では「治療」は医師のみができるもとされ、整骨院で行うものは「施術」という扱いで治療扱いをされていません。

そのため、いくら整骨院へ行っても後遺障害認定で有利になることはありません。

もし後遺障害認定を視野に入れる場合、できるだけ病院の通院実績を作ることが重要です。ただ、「病院は月に2回程度で、週に3〜4回は整骨院へ通院」という場合でも後遺障害認定されることもあります。

このようなことから、整骨院へ行くと必ず後遺障害認定されないというわけではなく、「整骨院への比重が大きいと後遺障害認定の確率が下がる」という認識で覚えておきましょう。

後遺障害慰謝料は獲得した等級によって金額が変わる

後遺障害として認定されると慰謝料は高額なものになります。例えば、後遺障害14級は前述の通り110万円です。また、12級は290万円になります(弁護士が示談交渉をした場合)。ちなみに後遺障害を申請して非該当とされた場合、後遺障害慰謝料はゼロです。

そのため後遺障害申請というのは、被害者にとって重要な補償になるので綿密な準備をしていく必要があります。

「腰痛が治らなかったら後遺障害申請について考える」という認識では遅すぎるため、通院の途中段階から準備をしていきましょう。

後遺障害申請を視野に入れた場合は通院頻度やMRI検査をする時期など、準備すべき点はたくさんあります。事故発生から早い段階で適切な対応を取ることで、後遺障害として認定される確率を高めることができます。

まとめ

交通事故では腰を痛めてしまうことが非常に多いです。もし腰痛が悪化してシビレが発生した場合、後遺障害申請を視野に入れてMRI検査をしておく必要があります。

MRIなどの検査結果で神経症状が認められた場合、後遺障害として認定される可能性があります。そのときは一定の通院頻度を保ち、6ヶ月以上の治療実績を作ることが後遺障害認定の確率を高める重要な要素です。

後遺障害の申請をすること自体にリスクはありません。ただ、治療を打ち切ったあとに後遺障害申請の準備を進めるのは遅いです。

そのため交通事故の初期段階から腰痛が重症化していた場合、後遺障害申請を前提に考えて準備をしておきましょう。後遺障害慰謝料は高額になるため、少しでも認定される確率を高める対策を取っておくといいです。