交通事故によるトラブルは最終的に「示談」という形で終了することが多いです。しかし、トラブルによっては示談交渉が不調に終わったり、示談が成立しているにもかかわらず損害賠償金を支払ってこないケースもあったりします。

このときは「支払督促」という制度を使って、相手方に損害賠償を請求する方法も検討すべきです。一般的に交通事故のトラブルで争う場合は「裁判」がすぐに浮かぶと思います。

ただ、トラブルを大きくせず早期に解決することを望む場合、いきなり裁判をせずに「支払督促」「調停」など、他の策を取ってから検討することも可能です。

支払督促は相手方に心理的なプレッシャーを与えられることから、裁判をせずにトラブルを解決することを望む被害者にとっては便利な制度になります。

交通事故による紛争を解決しようとする際、さまざまな選択肢を知っておいた方がいいです。ここでは、支払督促の制度と申し立てをするまでの流れについて解説していきます。

交通事故における支払督促

支払督促というのは、まず被害者が裁判所に支払督促の申し立てをして、裁判所が加害者に損害賠償金を支払うように督促をする制度です。そこで加害者側が異議を述べてこなければ、裁判で判決が下されたのと同じ効力を持ちます。

請求内容が認められたことが確定すれば強制力を伴うので、加害者側の財産を差し押さえて強制執行することができます。

支払督促のメリット

支払督促のメリットはいくつかあります。まず挙げられるのは「費用の安さ」「心理的圧力」になります。まず、支払督促をする費用は争う金額で異なりますが数千円程度で済むことが多いです。

また、加害者が支払督促に対して異議を申し立てた場合は裁判に移行します。そのため、支払督促に応じなければ被害者は裁判をする覚悟が伝わるため、加害者に対して精神的なプレッシャーを掛けることができます。

もし、加害者側が支払督促の到達後2週間以内に「異議申し立て」という手続きをしない場合、被害者は裁判所に「仮執行宣言」というものを申し立てることができます。

「仮執行宣言」というのは、加害者側の財産に対して差し押さえなどの強制執行が可能になる制度です。このようなことから、相手側が支払督促を無視した場合は被害者側の請求が全て認められることになります。

相手側が争う姿勢を見せなかった場合、支払督促を申しててから早期にトラブルを解消できる点も大きなメリットと言えます。

支払督促のデメリット

前述したように支払督促のメリットはありますが、その反面デメリットもいくつかあります。

まず挙げられるのは、相手方が最初から争う気がある場合です。相手が支払督促の内容について異議申し立てをすれば、通常の訴訟に移行します。そのため、時間の無駄になるリスクがあるとともに、裁判までに時間的な余裕を与えてしまうことです。

異議申し立てをする際は具体的な理由は必要なく、ただ「異議がある」という回答をするだけで支払督促を無効にすることができます。このようなことから、相手が支払督促に対して異議を出さない見込みがある場合でなければ有効な手段にはなりにくいです。

もし、裁判に移行した場合は原則的に相手方の住所地を管轄する裁判所で行われます。管轄の裁判所が遠方である場合、移動費用や時間的にも被害者にとって大きな負担になる可能性があります。

また、支払督促は損害賠償を請求する相手方の住所を知らなくてはいけません。例えば、「ひき逃げに遭い加害者の詳細情報がわからない」「無保険の自転車に衝突されて警察を現場に呼ばず、加害者の住所を控えていなかった」という場合は支払督促をすることができないので注意が必要です。

損害があれば無条件で支払督促をできるというわけではなく、相手の住所地を控えていなければ支払督促をできないことを知っておきましょう。

支払督促をする流れ

支払督促をする際は申立書を作成し、裁判所に提出します。裁判所は全国にありますが原則として、支払督促の相手方の住所地にある裁判所が管轄です。

裁判所は「家庭裁判所」「簡易裁判所」「地方裁判所」「高等裁判所」「最高裁判所」に分類されていますが、支払督促をするときは簡易裁判所が管轄になります。

まずは相手方の住所地にある簡易裁判所を調べて、申立書を提出する準備をしましょう。

支払督促の必要書類

支払督促に必要な書類は以下の通りです。

・120円分の切手を貼った無地の封筒

・1,110円分の切手を貼った無地の封筒

・郵便はがき

・戸籍謄本

・委任状(弁護士依頼をする場合)

これらに加えて「支払督促申立書」「当事者目録」「請求の原因及び趣旨」を記入した書類が必要です。

・当事者目録・請求の趣旨及び原因の写し

以下の用紙は裁判所のホームページからダウンロードできます。

記入をするときに迷ってしまうところが加害者に対する具体的な損害賠償の金額です。

まず、ケガを負った場合であれば実際に掛かった治療費や通院交通費、ケガが原因で仕事を休んだ場合の休業損害の金額は書きましょう。

次に重要なのは慰謝料です。慰謝料の金額は被害者自身の感情を基準にするのではなく、交通事故の場合に算出される慰謝料の計算方法で割り出すべきです。

法的に損害賠償請求をする場合、全ての金額に「根拠」がなければなりません。そのため、「これだけ苦痛を味わったから○○○万円でなければ納得いかない」という理由では、根拠として非常に弱いです。

一般的な交通事故で補償される慰謝料の計算方法は、

「通院期間×4,200円」もしくは「(通院日数×2)×4,200円」を計算し、少ない方の金額を採用する形を取っています。治療費や休業して損害が出た部分に加えて、慰謝料も合わせた金額を記入するといいです。

支払督促で掛かる費用

支払督促の申し立て書には収入印紙を貼る必要があり、これが支払督促をするための費用になります。収入印紙は郵便局で購入しましょう。

・30万円〜40万円以下:2,000円

・40万円〜50万円以下:2,500円

・50万円〜60万円以下:3,000円

・60万円〜70万円以下:3,500円

・70万円〜80万円以下:4,000円

・80万円〜90万円以下:4,500円

・90万円〜100万円以下:5,000円

・100万円〜120万円以下:5,500円

・120万円〜140万円以下:6,000円

・140万円〜160万円以下:6,500円

・160万円〜180万円以下:7,000円

・180万円〜200万円以下:7,500円

収入印紙代は相手に請求する金額によって異なり、上記のような料金体系になります。ちなみに、収入印紙代は支払督促をする相手方に請求することができます。

支払督促で損害賠償請求をすべき場面

交通事故で支払督促をするケースでは「加害者が無保険」「自転車や歩行者同士の事故のため、自動車保険が使えない」というときに、加害者が損害賠償を拒否してきたときなどです。

このように、当事者同士の交渉では進展が見込めないときに支払督促は効果的な制度になります。

支払督促は、費用を抑えてトラブルを解決できるメリットがあります。しかし、損害賠償の請求をする相手によっては、時間と費用が無駄になるリスクがあるので注意が必要です。

前述した通り、支払督促に対して異議申し立てがなされると裁判に移行します。余計な費用と労力を使わないためにも、支払督促をするメリットがあるかどうかを慎重に判断しなくてはなりません。

支払督促を検討してもいい場面として、「相手方が異議申し立てをしない見込みがある」「損害賠償の金額について争いがない場合」があります。

損害賠償があることや賠償金があることについて明確な証拠がある場合であれば、支払督促によって相手の出方を伺うといいでしょう。

ただ、支払督促に対して異議申し立てをしてくると裁判で決着をつけることになるので、裁判に移行したときの準備をしておくことが大切です。

支払督促が不調に終われば裁判の準備をする

相手側が被害者の請求に対して争う気がない場合は早期にトラブルを解消できます。ただ、実際のところ支払督促に対して異議申し立てをされるケースが多いため、トラブルを完全に解決できる確率はそこまで高くありません。

相手側が異議申し立をする場合、支払督促を受け取ったあと2週間にしなくてはいけません。そのため、支払督促をするときでも裁判に移行した場合を常に想定しておくべきです。

異議申し立てされてから裁判の準備をするようでは対応が遅いです。裁判に移行した場合に「どこまでなら譲歩できるか」「損害賠償をする金額の根拠」など、主張すべきポイントをまとめておくことが重要になります。

支払督促をする段階で弁護士に相談をするべき理由

支払督促に対して異議申し立てがなされた場合、裁判に移行して「口頭弁論」よってお互いの主張をしあいます。その後、別室で裁判官や司法委員と言われる和解を補助する職員と話し合います。

そこで、被害者と加害者に対して和解案を提示されます。しかし、被害者としては簡単に歩み寄りたくはないはずです。このとき、代理人として弁護士がいれば受けた被害に対する損害賠償額の根拠を論理的に主張することができます。

また、弁護士に依頼をすれば被害者自身は申し立て書類を作成する必要はありませんし、裁判所に出廷する必要もありません。

支払督促の段階から弁護士に依頼をしておくことで、裁判に移行したあとの流れも全て任せることができるのが大きなメリットと言えるでしょう。

まず被害者自身で支払督促をするのも問題はありません。ただ、損害賠償請求額の設定方法に疑問があったり裁判移行後に不安を感じていたりする場合、早めに弁護士に相談するといいです。