交通事故で発生したケガが治らなかった場合、症状固定という扱いを受けます。症状固定とは、交通事故のときだけに使われる専門用語です。

症状固定の意味は、「将来的にケガが回復する見込みがない状態」になります。また、症状固定になると治療を打ち切ることになるため、治療費の補償が終了するという意味も含まれています。

交通事故によるケガが完治しなかった場合、症状固定時の状態によっては後遺障害として認定される可能性があります。

ただ症状固定と診断されるタイミングや、それまでにどのような形で症状を訴えていたかによって、後遺障害の認定率は大きく変わるので注意が必要です。

症状固定と診断されるまでの過程は、後遺障害の審査で重要な要素です。そこで今回は、症状固定と診断されるまでどのような対応を取るべきかを詳しく解説していきます。

症状固定までの期間

医師から症状固定と診断されるまでの期間に決まりはありません。基本的には被害者ではなく医師の判断により、症状固定の時期は決まります。

このとき注意すべきポイントは、症状固定の時期を間違えると後遺障害申請で不利になることです。

例えば、手足を切断した場合は手術が終わった段階で症状固定という扱いになります。また骨折であれば、骨が癒合したときが症状固定とするタイミングになります。

上記の写真は骨折から3ヶ月以上経過しても骨が完全に癒合しなかった事例になります。このように、本来であれば骨が癒合している期間であるにもかかわらず、回復の見込みが見られない場合も症状固定にするタイミングになります。

ただ、むち打ちや腰の痛みなどの骨に異常がないケガは、6ヶ月以上の通院期間をしてから症状固定にするべきです。骨に異常がないケガについて、6ヶ月未満の治療期間で症状固定にした場合、後遺障害審査で非該当とされます。つまり、後遺障害に認定されません。

もし後遺障害認定を狙う場合、ケガの種類によって症状固定とすべき時期が違うことを知っておきましょう。

医師が勝手に症状固定の診断をした場合

基本的に症状固定とする日は医師と患者が相談した上で決めるのが望ましいです。ただ、被害者に対して誠意のない医師だと被害者と相談することなく勝手に症状固定の診断をしてしまうことがあります。

例えば、「これ以上は治療しても効果は出ないため、今月で終了にします」という医師は意外に多いです。中には「もう治っているはず」「本当はそこまで痛くないのでは」という対応する医師もいます。

症状固定とする時期は医師に決定権があるため、一度でも症状固定の診断を受けてしまうと覆すことは難しいです。そのため、通院を開始した当初から医師が適切な対応をしてくれるかどうかを常にチェックしなければいけません。

後遺障害認定を狙う場合、症状固定の時期は非常に重要なので医師の対応が悪ければ審査で不利になります。もし、誠意のない対応をする医師であればできるだけ早く転院先を探した方がいいです。

保険会社が3ヶ月で症状固定だと主張してくることもある

前述した通り、症状固定まで判断するまでの適切な期間はケガの状態によって異なります。後遺障害申請を視野に入れた場合、等級認定される確率が高い治療期間で症状固定にするのが基本です。

ただ、保険会社が被害者に対して症状固定の時期を指示してくることがあります。とくに多いのがむち打ちや腰痛など、骨に異常のないケガです。

むち打ちや腰痛で後遺障害を狙う場合、最低でも6ヶ月以上の通院実績がなければ等級認定される可能性はほぼなくなります。

保険会社側としては、できるだけ被害者への補償額を抑えたいと考えています。実際、被害者が後遺障害認定されてしまうと慰謝料が高額になるため、保険会社は後遺障害の申請自体をさせない対応をしてきます。

例えば、「むち打ちは3ヶ月の治療期間で治らなければ症状固定になります」というものです。これはウソの情報になるため、違法な対応です。

ただ、被害者は細かい知識を持っていないことが大半になるため、このように保険会社が不当な対応をしても高確率で被害者を言いくるめることができます。

被害者への補償額を少なくするための対応に惑わされることなく、不利な条件を言われたときは簡単に受け入れないようにしましょう。

症状固定から示談までの流れ

交通事故のケガが治らずに症状固定となった場合、後遺障害申請をするかそのまま示談にするか二択になります。そのまま示談をするのであれば、通院日数に応じた慰謝料の交渉に移ります。

一方で後遺障害申請をする場合、症状固定と診断されたあとに後遺障害診断書を医師に作成してもらいます。以下のような書類です。

後遺障害診断書に残った症状を具体的に記載してもらい、そのほかの必要書類を集めて自賠責調査事務所に後遺障害申請をする流れとなります。そこで後遺障害として認定された場合、そのまま示談交渉に移行します。

なお後遺障害認定されず非該当とされた場合、異議申立てという制度を利用して再び後遺障害申請をするか、等級認定をあきらめて示談交渉に移行するかどちらかを選びます。

症状固定と治癒の違い

ただ、このとき記載のされ方には注意が必要です。交通事故によるケガの治療を終了する際は医師がカルテに「症状が治らず治療を中止した(症状固定)」と記載する場合と、「ケガが治ったから治療を終了する」という2つのパターンがあります。

後遺障害の申請をする際、治療を打ち切ったあとに申請手続きの準備をします。このとき、医師が作成したカルテに「ケガが治らなかったため、症状固定とした」という内容で書かれていれば、後遺障害審査の際に問題はありません。

ただ、医師がカルテに「治癒」と書いてしまうと後遺障害認定の可能性はゼロになります。症状固定と治癒のどちらも治療を打ち切る判断になりますが、治癒と書いてしまうことで後遺障害認定に大きな影響を及ぼします。

後遺障害申請を有利に進める方法を知らない医師が大半なので、被害者は診察のたびに「まだケガが治っていない」ことを伝えた方がいいです。

整骨院では症状固定の診断ができない

ちなみに交通事故の治療を整骨院で行うことはできますが、整骨院に診断権はありません。そのため、症状固定の診断を受けるには整骨院ではなく病院に行く必要があります。

さらにいうと、後遺障害診断書も整骨院では作成することができず、医師のみが作成できることも知っておきましょう。

症状固定の診断を受けることによるデメリット

医師から症状固定の診断を受ける時期は非常に重要です。症状固定とするタイミングを誤ると後遺障害認定の確率が大きく下がるため、慎重に判断しなければなりません。

また、適切な時期に症状固定しなければ治療費だけでなく慰謝料にも影響を及ぼします。基本的に、一度症状固定の診断を受けてしまうと、特殊事例を除いて覆すことはできないと考えていいです。

このようなことから、症状固定の時期は治療している段階から考えておかなくてはなりません。そのため、症状固定とすることで起こるデメリットについても知っておく必要があります。

症状固定後の通院でリハビリをしても後遺障害審査で有利にはならない

医師から症状固定の診断を受けることで、保険会社からの治療費は補償されなくなります。そのため、症状固定後にリハビリをするために通院をしても治療費は自己負担になります。

また、症状固定後にいくら通院を重ねても後遺障害の審査で有利になることはありません。症状固定と診断されるまでの状態が、後遺障害で審査される基準になります。

症状固定の診断を受けてしまうと、後になって変更することは難しいため慎重に判断しなくてはなりません。もし、まだ治療を継続したいと考えている場合、症状固定の診断は受けないようにしましょう。

ただ、後遺障害認定を狙う場合、やみくもに治療期間を伸ばすことがいいとはいえません。治療を継続することで徐々に回復傾向が見られる場合は後遺障害認定率が下がります。「回復しているから、治る見込みがある」と判断されるからです。

症状固定の時期は状況によってベストな時期が変わるので、いつにするか悩んだときは必ず交通事故の案件をたくさん取り扱っている専門家である弁護士に相談をしましょう。

症状固定日について争いが起きる場合

一度、医師から症状固定の診断を受けた場合は基本的に覆すことはできません。ただ、症状固定日について争いが生じる場合があります。

よくある事例では、保険会社が「症状固定日よりも、実際には早い段階で症状固定していた」と主張してくるケースです。症状固定までの日数が長ければそれだけ治療費や慰謝料の金額が大きくなるからです。

被害者への補償額を少しでも減らすために、保険会社は裁判を起こして症状固定日を争ってくることがあるので注意が必要です。

とくに首や腰のヘルニアなどは、事故に関係なく発症していることが多いです。ヘルニアの症状が治らずに症状固定とした場合、保険会社から「ヘルニアは元々あった症状だから、かなり前の段階で症状固定になっているはず」と主張されやすいです。

もし、保険会社の主張が通って症状固定日が変更された場合、被害者の慰謝料は減額されて後遺障害審査にも影響を及ぼします。

一方で、症状固定としたあとに被害者のケガが急激に悪化した場合、例外的に治療費や慰謝料の増額が認められる場合もあります。

例えば、「筋肉や神経だけの症状かと思っていたら、実は脊髄にも障害が残っていたため急激に内臓機能に支障が発生した」という場合です。

このように、症状固定とした当初は予想できない症状が見られた場合、例外的に被害者に有利な判例もあることを知っておきましょう。

まとめ

交通事故で後遺障害申請をする際、症状固定日をいつにするかは重要な要素です。症状固定日は特殊事例を除き、変更されることはありません。

そのため、ケガの状態が悪い場合は早い段階から症状固定をいつにするか考えておく必要があります。ケガの種類によって症状固定にすべき時期が変わるため、被害者自身だけで考えるのではなく医師と相談しながら決めるのが望ましいです。

このとき、保険会社の提案する時期に症状固定をしてはいけません。基本的に保険会社は自社の利益を優先することを考えているため、提案通りに行動すると被害者は不利な状況になりやすいです。

後遺障害慰謝料は高額になるため、申請をするときは治療段階から認定される確率を高める対策をしていきましょう。