交通事故で最も多いケガはむち打ちです。治療によってむち打ちが完治すれば問題ありませんが、症状が治らずに後遺障害が残ることもあります。

このとき注意しなければならないのは、「首の痛みが残っていれば無条件で後遺障害認定される」というわけではないことです。

首の痛みや頭痛が強く残っていたとしても、後遺障害として認定されないことは頻繁にあります。とくに気をつけなければならないのは「整骨院だけに通院している」「たまにしか整形外科へ通院していない」というケースです。

後遺障害認定の審査を受ける場合、整形外科と整骨院での通院頻度の割合も審査基準に含まれます。

交通事故によるむち打ちで後遺障害認定を狙うためには適切な医療機関の使い方があります。そこで、後遺障害申請の審査を受けるとき、整形外科と整骨院への通院が補償に対してどのような影響があるかを解説していきます。

むち打ちで獲得できる後遺障害等級

交通事故によるむち打ちが完治しなかった場合、後遺障害として認定されるケースがあります。これは、痛みや頭痛が残れば無条件で後遺障害認定されるわけではありません。

後遺障害というのは1〜14級に細かく分類され、それぞれの等級に決められた症状に該当する場合のみ認定されるというものです。

むち打ちの場合、14級の「局部に神経症状を残すもの」、12級の「局部に頑固な神経症状を残すもの」というものが後遺障害認定時の基準になります。

「神経症状を残すもの」とは、首を痛めたことで手にかけてつながる神経を痛めた状態です。具体的な症状としては「シビレ」になります。

事故直後から治療終了まで症状に変化が出ないときは、12級もしくは14級の後遺障害として認定される可能性があります。

むち打ちは自覚症状だけを訴えても意味がない

後遺障害として認定されるために重要なのは、症状を客観的に証明することです。交通事故でむち打ちになったとき、首の痛みだけでなく「頭痛」「耳鳴り」「めまい」など、さまざまな症状が現れることがあります。

ただ、このような「自覚症状」をいくら訴えても後遺障害認定で有利になることはありません。後遺障害で認定されるかどうかは、特殊な事例を除き基本的に全て書面で審査が行われます。

自覚症状の訴えは自分でいくらでも操作ができてしまうため、むち打ちの後遺障害審査は厳格になっています。

そこで重要になるのが、第三者が客観的に判断ができる症状があるかどうかです。要は、「画像によってケガの重症度を証明できるもの」となります。

むち打ちによる後遺障害を証明するのに必要な検査

交通事故のあとはレントゲンによる検査をし、そこで骨に異常があるかどうかを診断してもらうのが一般的です。ただ、後遺障害申請を視野に入れた場合、レントゲンによる検査だけでは不十分です。

レントゲンというのは「骨」を検査するのに向いていますが、「神経」「靭帯」などを細かく検査するのに向いていません。

そこで必要になってくるのが「MRI検査」です。MRIは骨以外の神経や靭帯など、細かい部分まで精密に検査をすることができます。

そのため、事故後に発生したシビレを立証するためにMRI画像は必要不可欠です。もし、交通事故後から腕や手にシビレが出た場合、できるだけ早くMRI検査をするべきです。

それは、事故からかなり期間が経過したあとにMRI検査をして異常を発見できたとしても、「事故によるケガではない」と判断されるリスクが高まるからです。

このようなことから、むち打ちによるシビレを発症したあとは3ヶ月以内にMRI検査を受けておきましょう。

後遺障害認定を獲得するのに必要な通院期間

交通事故でむち打ちになり、後遺障害の認定基準を満たしていても「通院期間」や「通院日数」も重要な審査基準になります。

まず知っておかなくてはならないのは、むち打ちの場合は「6ヶ月以上の通院実績」が必要です。たとえ神経症状を画像で証明できたとしても、通院期間が6ヶ月未満であればまず後遺障害として認定されません。

また、「通院日数」も重要な審査項目です。例えば、6ヶ月以上の通院実績があっても「月に1・2回程度の治療」では後遺障害認定の確率は大きく下がります。

これは「その程度の治療頻度では重症ではないはず」と、後遺障害審査のときに捉えられてしまうからです。このようなことから、できるだけ毎月10日以上の通院実績を作っておくことが望ましいです。

後遺障害認定で重要な医療機関選び

交通事故によるむち打ち治療をする医療機関は整形外科か整骨院であることがほとんどです。

ただ、一般の人から見ると整形外科と整骨院は同じ医療機関であっても、法的な扱いが全く異なります。そのため、むち打ち治療を継続するにあたり、整形外科と整骨院の違いを明確に知っておかなくてはなりません。

まず、整形外科と整骨院では取得している資格から違いがあります。整形外科は「医師免許」が必要になり、整骨院は「柔道整復師」という免許が必要になります。

整形外科と整骨院の診療内容で、最も異なるところは「診断権」の有無です。例えば、交通事故でむち打ちになった場合、診断内容は「頚椎捻挫」「外傷性頸部症候群」というものになります。

このように診断できるのは医師のみになり、整骨院ではケガをしているかどうかの「判断」はできますが診断権がありません。そのため、「診断書」を作成できるのも医師のみです。

診断をする過程の中で行われる、レントゲンやMRIなどの機器をしようした検査をすることができるのも整形外科のみです。交通事故では診断内容を基準にして補償内容を決めていくため、医師の診断が重要なものとなります。

また、「治療」というのは医師のみができるとされており、柔道整復師が行うものは「施術」とされています。要は、整骨院では「治療に似たもの」をしていると扱われているのが現状です。

ここまでの内容では整骨院よりも整形外科の方が圧倒的にメリットが大きく感じると思いますが、実際はどうでしょうか。以下で確認してみましょう。

整形外科の特徴

前述した通り、整形外科には診断権があるのが大きな特徴です。ただ、ほとんどの整形外科では「シップ」「痛み止め」を使ったむち打ち治療になります。

それ以外では「牽引」「電気」などの治療を行う場合もありますが、「手」を使った治療をしてくれません。

基本的に医師は「むち打ちは安静にしていれば治る」と考えているため、直接被害者の身体を触れた治療をしないと考えていいです。

そのため、「整形外科では何もしてくれない」と感じてしまうことが多いです。

整骨院へ通院するメリット

整形外科での治療はシップや電気などの治療がメインなのに対し、整骨院では「手」を使って施術していくのが特徴になります。

首だけでなく首に痛みが出ている原因部分を一緒に施術してもらえることで、むち打ちの回復が早くなることはよくあります。

実際、むち打ちはシップや痛み止めだけで完治させるのは難しいです。むち打ちによって発生する首の痛みや頭痛などを早く緩和させるために整骨院への通院は有効です。

ただ、整骨院の先生によってむち打ちに対する考えが大きく違うこともあり、選んだ整骨院によって施術内容が全く変わることも多いので注意しましょう。

そのため、整骨院へ行く前に「自分に合った施術をしてくれるのか」「本当にむち打ちが回復する見込みがあるのか」ということを確認した上で通院を継続すべきです。

自分に合った施術をしてくれる整骨院に通院することができれば、むち打ちの後遺障害が残るリスクを最小限にできるのが大きなメリットになります。

整骨院への通院が後遺障害認定で不利になる場合

ただ、後遺障害の認定基準を満たしている場合でも、整骨院への通院することで後遺障害認定の確率を下げてしまうことがあります。

後遺障害申請のときは、「後遺障害診断書」というものを医師に作成してもらう必要があります。

これは、事故後から治療終了後の症状や、残った神経症状を証明する重要な書類です。

しかし、前述した通り診断権は医師のみに認められているため、整骨院では後遺障害診断書を作成できません。また、定期的に医師の診察を受けていなければ後遺障害診断書を書いてもらえないです。

最初だけ整形外科に行き、数ヶ月後に後遺障害診断書を依頼しに行ってもほとんど拒否されます。後遺障害が残る過程の診察履歴がなければ、後遺障害診断書をまともに書く材料がありませんし、適当なことを書けば医師に責任が出ます。

そのため、「整骨院だけの通院」をしていると後遺障害として認定される確率を大幅に下げてしまうことを認識しておきましょう。

整骨院では治療扱いされていない

また、整骨院に通院しても治療実績にはなりません。「治療」というのは医師のみができるものとされており、整骨院で行うものは「施術」とされているからです。

「整骨院では丁寧にマッサージしてくれるけど、整形外科は身体をまともにチェックせず電気を当てるだけ」と言っても、法的には医師のみが治療を行えます。

後遺障害の審査では通院頻度や内容を含めた「治療実績」も重視されます。そのため、整形外科への通院頻度が極端に少なければ、いくら整骨院に行っても治療実績は作りにくい現状があります。

「整骨院に毎日行っているから大丈夫」という認識であれば、後遺障害認定時に不利になる可能性が高いので注意しましょう。

整骨院が犯しやすいミス

基本的に整骨院の先生は交通事故に関する知識はほとんどないと考えていいです。そのため、整骨院側が被害者の後遺障害申請の足を引っ張ることもよくあります。

よくあるのは「神経症状の有無」についての認識です。整骨院は被害者の状態を毎月「施術証明書」というものに記載します。

そこにむち打ちや腰などケガの状態を詳細に記載するのですが、神経症状に関する内容を記載していないことがあります。

むち打ちで認定される可能性がある後遺障害の等級は14級・12級です。具体的な項目としては「局部に神経症状を残すもの」というものになります。要は、「手につながる神経を損傷してシビレが残った」という場合です。

この場合、事故当初から手にかけてシビレがあることを整骨院側が記載していなければなりません。もし、シビレに関する記載がない場合、後遺障害申請をしても非該当になる可能性が非常に高いです。

また、最後までむち打ちが治らずに治療を打ち切った場合、「治療を中止した」という扱いにします。しかし、このルールを知らない整骨院は「むち打ちが治癒した」と記載してしまことがあります。

この場合も、後遺障害として認定されるされる可能性は非常に低いです。

たとえ後遺障害として認定される基準を満たしていても、整骨院側が作成する書類に不備があれば認定されません。整骨院へ通院する場合、上記のようなリスクがあることを知っておきましょう。

後遺障害認定を狙うなら整骨院だけなく必ず整形外科も併用すべき

むち打ち治療を継続する際、「整形外科ではしっかり治療をしてくれないから整骨院に通院する」という被害者は多いです。ただ、むち打ちを発症後に腕から手にかけてシビレが出た場合、整形外科への通院も必ず継続しましょう。

交通事故によるケガは一般的なケガと全く違い、想像以上にダメージが大きいです。治療費等の補償期間が終了しても完治しない場合、その後の治療費は自己負担になります。

このようなことから、将来的に必要になるかもしれない治療費を確保していくためにも慰謝料は非常に重要です。

もし後遺障害として認定されると、通院慰謝料とは別に「後遺障害慰謝料」というものが支払われます。最も症状が軽いとされる14級であっても後遺障害慰謝料は100万円を超え、12級であれば300万円近くになります(弁護士が示談交渉をした場合)。

かなり高額な慰謝料になるため、「むち打ちが治らなかったら後遺障害申請の準備を進めよう」という考えではまずいです。

それは、後遺障害として認定されるには事故当初からの症状経過も重要な判断材料とされているからです。被害者自身が医師に対して、「どのように症状を伝えているか」ということも後遺障害申請の結果に影響が出るので注意が必要です。

もし、手のシビレの状態などを細かく伝えていなければ、後遺障害認定の基準を満たしていても非該当とされるリスクが高まります。

むち打ちを治すために整骨院へ行くのは問題ありませんが、整形外科への通院が極端に減ったりすることで後遺障害申請に悪影響を及ぼすこと知っておくべきです。

後遺障害申請を視野に入れる場合、最低でも2週に1回程度の頻度で整形外科へ通院しておきましょう。ただ、2週に1度の通院はあくまで最低ラインになり、ケガの状況によって理想の通院頻度は違います。

基本的に整形外科や整骨院は後遺障害に関する知識はないと考えていいので、疑問点がある場合は必ず交通事故知識に優れた専門家に相談しましょう。