交通事故によるケガが完治しなかった場合、後遺障害として申請することができます。後遺障害では、「将来的に、交通事故で負ったケガの回復見込みがない」と診断されることで等級に応じた慰謝料が支払われます。
残った症状に対する治療費を生涯にわたって補償されることはありません。そのため、後遺障害が残った時点で基準の賠償額を支払って解決するというものです。
1~14級に分類されているのが後遺障害ですが、ここでは14級の認定基準について解説していきます。
後遺障害の申請前に確認すべきこと
交通事故による後遺障害の認定というのは、ケガが治らなかったら無条件で認定されるものではありません。損害賠償上の後遺障害では、各等級の決められた基準に当てはまるかどうかで判断されます。
場合によっては痛みや障害が残っていても、後遺障害に認定されないケースも多いです。そのため、自分のケガが後遺障害の基準に該当するかを見極めなくてはなりません。それ以外にも、以下のようにいくつかの確認事項があります。
交通事故の発生状況と、ケガの状態が一致する
交通事故が原因で後遺障害が残ったと判断されるには、「交通事故との因果関係」が認められる必要があります。そのため、交通事故後に医師の診察を受けることで取得した診断書に傷病名が記載されていなかったり、事故から1~2ヶ月後に痛くなったりしたものは審査の対象外となります。
発生状況も重要な根拠になります。例えば、10~20㎞程度のスピードで発生した追突事故では明らかに衝撃が少ないので、後遺障害が否認される可能性が高いです。
事故発生から継続的に医療機関へ通院をしている
後遺障害の申請には「症状固定」といって、「ケガの状態が固定して、回復する可能性がない」と診断される必要があります。このとき、最低でも6ヶ月以上の通院実績が必須です。例えば3ヶ月程度で治療を打ち切ってしまうと、後遺障害の申請すらできないので注意しましょう。
他にも1ヶ月程度治療をしない期間があったり、1週間に1回程度の治療だったりした場合では、「そこまで症状がひどくない」と判断される原因になります。
初期症状からの訴えが最後まで連続的に一貫している
交通事故によるケガが、発生から症状固定まで訴えに大きな差がないかも重要なポイントです。これは、コロコロと痛む箇所が変わったり、痛みの波が変動したりするのも後遺障害認定にマイナス要素となります。症状の連続性や一貫性がないと判断され、後遺障害認定がされにくいのです。
ケガが重たく、常時症状があると認められる
残ってしまった障害が原因で労働能力が低下したことを医学的に説明できるかも重要なポイントです。さらに「他覚的所見」といって、第三者が画像で異常を立証できるものがあると後遺障害認定されやすくなります。例えば、骨に変形が見つかるといったものです。
「痛み」「ダルさ」などの自覚症状だけでは、後遺障害が残ったという根拠に乏しいため、認定されにくいのが現状です。
後遺障害14級と認定される症状について
後遺障害で認定された等級のなかでも14級は全体の50%を超え、最も認定件数の多い等級です。
ただ、後遺障害認定で最多の等級だからといっても注意が必要です。それは、後遺障害の基準に「該当なし」と等級が認定されないことが多いからです。まずは自分の症状が1~9号に該当するかをチェックするといいです。
1~9号に該当するかどうかによって、交通事故による14級の後遺障害が認められるかどうかが変わってきます。
1号:1眼のまぶたの一部に欠損を残し又はまつげはげを残すもの
「まぶたの一部に欠損」というのは、角膜は完全に覆うことはできるが完全に眼が閉じないものいいます。また、若干ではあるが白目が見えてしまっている状態です。「まつげはげを残す」というのは、全体の半分以上のまつげがはげてしまったものです。後遺障害申請の際は写真も資料として同封します。
2号:三歯以上に対し歯科補綴(ほてつ)を加えたもの
事故によって3歯以上に異常が発生したことをいいます。歯を喪失したり、見えている部分の4分の3以上を欠損したりしていると後遺障害の対象になります。
「歯科補綴を加えたもの」とは、機能回復を目的として「差し歯」「被せ物」「人工の歯」で補うことをいいます。そのため、日常生活では問題が残らない状態まで回復したとしても後遺障害認定の対象となってきます。
また、「ブリッジ」という治療によって、両サイドの健康な歯を削った場合も1歯としてカウントされます。
ただし、インプラントは美容の要素が入る治療のため、認められることが少ないです。費用が高額になることも認められないケースが多いです。
3号:1耳の聴力が1メートル以上の距離では小声を解することができない程度になったもの
片耳の平均聴音力レベルによって「どれくらい耳が聞こえているか」を検査します。聴力が40dB以上70dB未満の場合に後遺障害14級に認定されます。
具体的には、40dB「図書館の音の程度」、50dB「静かな事務所の音の程度」、60dB「普通の会話の音の程度」、70dB「騒々しい街頭の音の程度」という基準になります。要は、片耳の聴力が、小声を聞き取れないくらいの障害を交通事故によって負った状態を指します。
聴覚の検査は全部で3回あり、合計数値の平均値で後遺障害の審査をします。検査の間隔は1週間ほど経過してからです。ここまでは自覚的な応答で検査が進められます。
さらに精密な検査をするときは「聴性脳幹反応(ABR)」といい、脳波から聴覚の異常を測定する方法も取り入れます。
4号:上肢の露出面にてのひらの大きさの醜い跡を残すもの
ここでいう「上肢」とは、肩から指先を含む腕全体です。醜い跡の「明確な基準」がありませんが、見た目ではっきりとわかる状態です。また、「てのひらの大きさの跡」というのは、被害者の手を基準にして「総面積」から計算されます。また、指は面積の計算に含まれません。
要は、交通事故によって傷跡やアザがどれだけ残ったのかを確認します。
総面積から計算されるため、瘢痕が1つでなければいけないということはありません。2つ以上の瘢痕が残ったときは合わせて計算しますので、残った跡の形はあまり関係ないと考えてください。
5号:下肢の露出面にてのひらの大きさの醜い跡を残すもの
股関節から足先までを「下肢」といいます。醜い跡の基準や、跡の総面積から計算される方法は後遺障害14級4号と同様のとなります。
6号:1手のおや指以外の手指の指骨の一部を失ったもの
片手の指の骨の一部を失ってしまったものが後遺障害に当てはまります。例えば、指先を切断したものがわかりやすいと思います。このとき、「遊離骨片」という「折れた骨がくっつかず、残ってしまった骨のかけら」がレントゲン写真で確認できれば後遺障害認定の対象となってきます。
7号:1手のおや指以外の手指の遠位指節関節を屈伸することができなくなったもの
遠位指節関節とは、第一関節(指先)のことをいいます。指先を曲げたり伸ばしたりする筋肉の損傷や強直が明確で、自分の力では動かせなくなったものが後遺障害に当てはまります。また、これに近い状態も後遺障害の対象になることもあります。
8号:1足の第3の足指以下の又は2の足指の用を廃したもの
第3の足指以下というのは、足の「中指」「薬指」「小指」のことをいいます。これらの指先から根元近くまでを切断した場合か、足指の可動域が半分以下になったものが後遺障害に当てはまります。要は足の指が切断されるか、半分も動かせない状態になってしまうことです。
9号:局部に神経症状を残すもの
「神経症状を残すもの」とは、手や足のシビレのことです。ケガによって首から手につながる神経、腰から足につながる神経に損傷が認められれば後遺障害として認定されます。
後遺障害の14級で最も多い事例は「むち打ち」です。むち打ちで後遺障害が認定される件数は多いのですが、「非該当」と審査されてトラブルになるケースも多いです。なぜ、トラブルになるかといいますと、1~8号では数値や画像で判断できます。しかし、後遺障害14級の9号は「他人が見て判断できない」ケースが多いからです。
首や腰の骨がズレて神経を圧迫しているなど、レントゲン写真で確認できれば問題なく14級に認定されます。また、神経学テストというなど、数多くの方法があります。例えばジャクソンテストという、首の神経に異常があるかテストする方法があります。
ジャクソンテストでは、患者は座位姿勢を取り、施術者は患者の後ろ側に立ちます。その状態から患者は真上を見るように首を後ろに向けて、施術者は首を上に向けた状態の患者の頭部を下へ圧迫します。
ここで首の痛みが強くなったり、手にかけてシビレが発生したりした場合は陽性(神経症状あり)となります。症状が何も変わらなければ陰性(神経症状なし)です。要は、「首の神経で、どこを痛めているか」をテストするのです。
神経学テストで陽性となれば、後遺障害として認定される可能性がアップします。しかし、「レントゲン写真やMRIなどの画像では判断できないけど、痛みやシビレが残っている」ケースでは、確実に認定されるとは限りません。
むち打ちや腰の捻挫などは見た目ではわかりにくい障害で判断が難しく、明確な基準がないのが現状です。そのため、神経の異常が画像で確認できなければ後遺障害として認定されにくいです。
後遺障害が認定されたときの慰謝料について
交通事故によるケガで14級の後遺障害が認定されると、慰謝料が支払われます。このときの基準は「自賠責保険基準」「任意保険基準」「弁護士基準」の3つに分類されます。同じ等級であっても、それぞれの基準で慰謝料の金額が大きく変わるので注意が必要です。
自賠責保険基準ですが、後遺障害14級に認定されると32万円が慰謝料として支払われます。補償の目的が「最低限の補償」となっているので非常に低い金額設定となっています。
次に任意保険基準ですが、金額設定の基準は原則的に非公開となっています。これは、保険会社が独自の算定方法で行っています。自賠責保険基準の慰謝料よりもわずかに高い程度で、40万円前後の慰謝料が支払われることが多いです。
最も金額が高くなる弁護士基準は、過去の裁判の判例を目安に賠償額を設定しています。そのため、別名「裁判基準」ともいわれます。この目安というのは赤本と呼ばれる「民事交通事故訴訟 損害賠償算定基準」に記載されています。
自賠責保険での後遺障害慰謝料は32万円でしたが、弁護士基準となると110万円まで慰謝料がアップします。このように、同じ後遺障害の等級であっても、弁護士に相談するかどうかというだけで約80万も金額が変わってくるのです。今後の治療費などを考えると非常に大切な補償になるため、後遺障害の申請は弁護士に頼むといいです。
後遺障害が残りそうなときに取るべき行動
交通事故後のケガが長引いたとき、後遺障害の申請を視野に入れて対策を取る必要があります。そのときは交通事故の専門知識が豊富な弁護士に依頼するといいです。症状固定の時期だけでなく、後遺障害の申請について適切なアドバイスをもらえます。
弁護士に依頼すれば後遺障害で重要な「賠償額を増額するノウハウ」を知っていることも、非常に心強いものとなります。適切な賠償をしてもらいたい被害者側と、少しでも賠償額を減らしたい保険会社側は正反対の考えです。そのため、賠償額について両者の考えが一致することはまずありません。
特に後遺障害14級は認定されなければ、残った症状に対して賠償がゼロになります。認定に有利な状況を作り出して申請ためには、自ら行うのではなく専門家の力が必要です。
弁護士事務所に依頼すべき理由
弁護士に依頼して後遺障害申請を考えたとき、まず自分の加入している任意保険を確認するといいです。「弁護士費用特約」というものに加入していたら、保険会社が弁護士費用を負担してくれます。弁護士費用特約は等級に影響なく費用負担をしてくれる優れたプランなので、必ず使うべき特約です。
仮に弁護士費用特約に未加入であっても、「着手金なし」「完全成功報酬」で動いてくれる弁護士事務所に依頼すればリスクはありません。
さらに、被害者を正しく守ってくれる弁護士であれば、弁護士に依頼すべきかどうかを適切に判断してくれます。
自分一人で悩んでいたらズルズルと時間だけが経過して、適切な申請のタイミングを逃してしまう危険性が高いです。後遺障害と認定されるためには弁護士の力が必要不可欠のため、早めに相談するよう行動するといいでしょう。