交通事故によるケガが完治しなかった場合、「後遺障害」として認定される可能性があります。後遺障害は1〜14級に分類され、数が少なくなるにつれて重症度が高くなります。

それぞれの等級によって細かく症状の基準が決められており、後遺障害の等級を獲得することで「後遺障害慰謝料」が被害者に支払われます。

後遺障害として認定されたときの慰謝料は非常に高額です。獲得した等級が一つ違うだけで被害者の慰謝料は数百万円単位で変わることもよくあります。

例えば、交通事故によるケガで「肩・肘・手首」の関節のうち、可動域が半分以下になってしまった関節がいくつあるかで等級が異なります。3つある腕の関節のうち2つに機能障害が残ったときは、後遺障害6級の基準に該当します。さらに重症度が高くなり、肩・肘・手首の全てに機能障害が残れば後遺障害5級の基準に該当します。

このとき6級に認定された場合は1180万円の後遺障害慰謝料ですが、5級に認定された場合は1400万円となり、200万円以上も金額が異なってきます。

残った症状が少し違うだけで等級が変わり、それにより慰謝料の金額も大きく変わります。そのため、「自分の症状が何級の後遺障害の基準を満たしているのか」を明確に把握しておかなくてはなりません。

ここでは1〜14級ある後遺障害のなかで5級の認定基準について解説していきます。

後遺障害として申請する前に確認すべきこと

交通事故が原因で残ったケガは、全てのケースで後遺障害認定されるわけではありません。それぞれの等級で決められた基準に該当していることが、後遺障害として認定される条件になります。

そこで注意しなくてはならないのが「自覚症状」だけを訴えても、被害者にとって納得のいく等級で認定されないことも多くあるということです。後遺障害は基本的に「書面審査」のみで判断されるため、認定されるためには計画的に準備を進めていく必要があります。

後遺障害に関する知識は、非常に複雑で専門性が高い分野です。そのため、あまり交通事故に詳しくない被害者が、自分だけで後遺障害申請の準備を進めていくのは避けた方がいいです。

等級が一つ違うだけで、数百万円単位で慰謝料が変わります。被害者が泣き寝入りせず、適切な後遺障害の等級を獲得するには、交通事故を専門に扱っている弁護士にアドバイスしてもらうことが望ましいです。

交通事故によるケガだということを証明できる

交通事故が原因で残ったケガが後遺障害の基準に該当しても、「交通事故によって発生した症状だ」ということを証明できなくては後遺障害として認定されません。

例えば、後遺障害5級1号に「1眼が失明し、他眼がの視力が0.1以下になったもの」という項目があります。

被害者がもともと視力を失っていて、交通事故が起きる前から等級に該当する症状があった場合は、後遺障害の対象になりません。これは「交通事故によって視力を失った」という証明ができないからです。

また、交通事故から3ヶ月以上経過してから発生した症状は「交通事故から期間が空き過ぎているので、事故との因果関係が認められない」と判断される可能性が高くなります。

そのため交通事故のあとは、少しでも身体に異常を感じるようであれば、すぐ医師に細かく症状を伝えることが大事です。たとえ交通事故によって起こった症状だとしても、医師に異変を伝える時期が遅くなれば「後遺障害として認定される可能性」は低くなってしまいます。

交通事故の直後から定期的に通院をしている

後遺障害として認定されるには「通院状況」も重要になります。いくら症状が重くても、病院へ通院していなければ「軽少なケガ」だと判断され、後遺障害として認定されにくくなる可能性があります。そのため、交通事故のあとは「定期的に通院している実績を残すこと」も大事な項目です。

交通事故では一定期間、治療を継続しても完治しなかったものは「症状固定」という、「将来的に回復が見込めない状態」として診断されます。後遺障害として申請する際は、医師に「症状固定」と診断されてから手続きの準備に入っていくのが一般的です。

症状固定と診断される時期については、交通事故後すぐに診断されることもあれば、数ヶ月後に診断されることもあります。

例えば、「足の指を切断した」という症状は手術後に後遺障害が確定しているので、交通事故発生から早い段階で症状固定と診断を受けます。また「精神障害を発症したもの」などは、数ヶ月単位でリハビリをしてから症状固定と診断されることが多いです。

後遺障害5級の項目は、ケガの状況によって症状固定とする時期にバラつきがあり、被害者だけで判断するのは非常に難しいです。

交通事故のあとはできるだけ早く弁護士に相談をして、「どのタイミングで症状固定にするか」などを準備していくことが望ましいです。

症状固定にする時期は非常に重要なポイントになるので、「後遺障害の基準に該当するかもしれない」と感じたら、すぐに交通事故知識に優れた弁護士に相談することが泣き寝入りのリスクを減らすことにつながります。

残った症状を画像や数値で立証できる

後遺障害は、画像や数値で客観的に重症度を立証できるものが認定されやすくなります。これを「他覚的所見」といい、第三者が客観的に症状を判断できるものが重要となります。そのため、いくら症状ひどくても「自覚症状」は後遺障害に審査基準に入りません。

「足の指を全部切断した」という症状は画像で容易に立証できます。ただし、視力や聴力など、数値を自分でコントロールできるものは注意が必要です。

例えば、視力検査をしたときに見えているにもかかわらず「見えない」と答えたり、実際に音が聞こえているのに「聞こえない」と答えたりするものです。このときは、より精密な検査をして症状を立証していく必要があります。

「失ったもの」と「用を廃したもの」の違い

後遺障害5級では「〜を失ったもの」「〜の用を廃したもの」という言葉が出てきます。

まず「失ったもの」とは「手足の指が根元から切断されたもの」です。一方で「用を廃したもの」とは、「指先から切断したもの」「可動域が半分以下になったもの」「感覚が完全になくなったもの」をいいます。

後遺障害5級として認定される症状

1号:1眼が失明し、他眼の視力が0.1以下になったもの

交通事故のケガにより片目を失明し、もう片方の視力が0.1以下に低下してしまったものが後遺障害5級の対象になります。

失明していない片方の視力は裸眼ではなく、メガネやコンタクトレンズを使用した矯正視力が基準になります。そのため、裸眼のときの視力が0.1以下であっても後遺障害5級の対象にはなりません。

また、交通事故に遭う以前から視力が悪いこともあります。もともとの視力が0.1以下の場合、視力低下が交通事故の影響ではないので後遺障害の対象にはなりません。

このとき、両眼の視力が0.06以下になった場合、さらに重症度の高い後遺障害4級の基準に該当します。

視力検査の数値によって後遺障害の等級が変わる可能性があるので、精密に検査をしてもらことが重要です。

2号:神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの

交通事故によるケガで、神経系統に障害が残り、特に簡単な労働以外のものができなくなる状態が後遺障害の対象です。「高次脳機能障害」「神経麻痺」「外傷性てんかん」などを発症し、通常の人の4分の1以下の労働力しか有していない状態が後遺障害5級の目安となります。

具体的な症状は以下のようになります。

・高次脳機能障害:頭部への強い衝撃により脳挫傷を発症し、記憶力や判断力が著しく低下することで「他人から頻繁に指示がなければ労務を遂行できない」状態になることです。

一般就労も可能ではあるが、新しい作業を覚えることができなかったり、環境が変わると作業の継続に支障をきたすといったようなトラブルが発生しやすいです。

そのため、一般の人よりも作業能力が著しく低いので、「単純作業に限定する」「職場のサポートを欠かさない状態にする」とった体制を取らなくてはならないものをいいます。

・神経麻痺:脊髄損傷や脳の損傷などにより手足が麻痺して、文字を書くことや歩くことができなくなる状態を指します。頭部への外傷が原因でめまい・平衡機能に著しい障害が残り、就労できる職種が極度に限定されたものが目安になります。

・外傷性てんかん:「てんかん」を発症し、十分に治療や薬を服用しているにもかかわらず、頻繁な発作により労務に多大な支障をきたした状態が後遺障害5級の対象です。

「1ヶ月1度以上の意識障害を伴う発作」「周囲の状況に正しく反応できない状態」など、「就労可能な職種が著しく制限された状態」になり、労働力が一般の人の4分の1以下になったものが目安となります。

3号:胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの

交通事故が原因で内臓にダメージが残ることで、労働力が4分の1以下に低下してしまったものが後遺障害5級の対象になります。以下のように、それぞれの臓器によって後遺障害の基準は細かく設定されています。

・呼吸器:呼吸器の障害では肺の機能が低下して、動脈血の酸素分圧が「50〜60Torr以下」になると後遺障害5級として認定される可能性があります。

「Torr」とは圧力を表す単位になります。目安として、健常者は100Torr前後の数値が一般的です。

・小腸・大腸:人工肛門を増設しても大腸・小腸の内容物が漏れ出てしまうため、人工排泄口(ストマ)周辺に著しい皮膚のただれが発生してしまい、便を収容する袋(パウチ)等を装着できないものが後遺障害5級に該当します。

・泌尿器:尿が漏れ出てしまい、集尿袋におさまらず人工排泄口(ストマ)周辺に著しい皮膚のただれが発生してしまい、尿をを吸収するパッドなどを装着できないものが後遺障害5級に該当します。

4号:1上肢を手関節以上で失ったもの

交通事故によって片腕の手首から肘までの間で切断したものが後遺障害5級に該当します。「手関節」とは手首のことです。

片腕を切断した位置が肘から肩の近くにある上腕骨までの間であれば、より重症度の高い後遺障害4級に該当します。

5号:1下肢を足関節以上で失ったもの

交通事故によって片足の膝関節から足首の関節までの間で切断したが後遺障害5級に該当します。

片足を切断した位置が膝関節から股関節の間であれば、より重症度の高い後遺障害4級の基準に該当します。

6号:1上肢の用を全廃したもの

交通事故により片腕の機能に障害が残ったものが後遺障害の対象になります。上肢とは「肩・肘・手首」のことをいい、5級では全ての関節に障害が残ったものが該当します。

具体的には「肩から手首まで完全に麻痺した状態」「通常よりも片腕の可動域が10%以下に制限されたもの」などです。

肩・肘・手首のうちいずれかの関節が少し動くようであれば、後遺障害5級よりも軽症な等級になる可能性があります。そのため、それぞれの関節の可動域の検査を慎重にしてもいましょう。

7号:1下肢の用を全廃したもの

交通事故により片足の機能に障害が残ったものが後遺障害の対象になります。下肢とは「股関節・膝・足首」のことをいい、5級では全ての関節に障害が残ったものが該当します。

具体的には「股関節から足首まで完全に麻痺した状態」「通常よりも片足の可動域が10%以下に制限されたもの」などです。

股関節・膝・足首のうちいずれかの関節が少し動くようであれば、後遺障害5級よりも軽少な等級になる可能性があります。必ず医師に細かく可動域を検査してもらいましょう。

8号:両足の足指を全部失ったもの

交通事故により両足の指全てを切断したものが後遺障害5級の対象になります。「失ったもの」とは、「指の根元から切断したもの」です。

このとき、両足の指の根元ではなく「足の甲の真ん中あたりから切断したもの」であれば、より重症度の高い後遺障害4級の基準に該当します。

後遺障害5級に認定されたときの慰謝料について

交通事故によるケガが治らずに後遺障害が残ったときは「後遺障害慰謝料」が被害者に支払われます。このとき被害者は、後遺障害慰謝料の算定基準が3つあることを認識しておかなくてはなりません。

3つの算定基準とは「自賠責保険基準」「任意保険基準」「弁護士基準(裁判基準)」です。同じ後遺障害5級であっても、3つの基準は異なり慰謝料の金額が大きく違います。

自賠責保険基準では599万円となり、3つある基準のなかでは最も低い金額となります。自賠責保険は「最低限度の補償」が目的のため、非常に低い金額となっています。

任意保険基準は保険会社が独自の算定基準で慰謝料を算定するため、内容は原則的に非公開となっております。実際のところは自賠責保険基準よりもわずかに高い750万円前後で慰謝料を設定しているところが多いです。

3つある基準のなかでは弁護士基準が最も高い金額になります。別名(裁判所基準)とも言われ、過去の裁判例から慰謝料を決めていきます。これは「民事交通事故訴訟 損害賠償算定基準(赤本)」という本に記載されている内容が基準となっています。

後遺障害5級では、弁護士が被害者の代わりに交渉をすることで最大1400万円まで慰謝料が増額します。自賠責保険基準と比べると約800万円の違いとなります。将来的にかかるであろう医療費を考慮すれば、弁護士に示談交渉をしてもらう方が賢明といえます。

自賠責保険基準と弁護士基準で慰謝料の金額が大きく違うのは理由があります。自賠責保険では「最低限度の補償」とされていますが、弁護士基準では「妥当な金額まで増額してもいい」とされている点です。そのため、弁護士基準で算出された慰謝料が被害者にとって適切な金額と考えるといいでしょう。

弁護士に依頼したときの費用について

日常的に弁護士と接点があるという人は少ないです。そのため、「弁護士費用は高額になる」とイメージしている人は多いです。しかし、弁護士費用をかけずに、弁護士を雇う方法があります。その方法とは、まず自分が加入している任意保険を確認してみることに始まります。

任意保険のプランにある「弁護士費用特約」に加入していれば、保険会社が弁護士費用を300万円まで補償してくれます。適用範囲も広く、被害者自身が弁護士費用特約に加入していない場合でも、被害者の家族が弁護士費用特約に加入していれば補償の対象になる可能性があります。

保険会社によって弁護士費用特約の適用範囲が異なりますが、まず確認しておくべきものが弁護士費用特約になります。

弁護士費用特約は、使用しても等級が変わりません。そのため、保険料が高くなることがないので非常に優れた特約です。弁護士費用特約を使うリスクは全くないので、加入していれば迷わず使うプランといえます。

もし、弁護士費用特約に未加入であっても、弁護士費用をかけずに済む方法があります。「着手金なし」「完全成功報酬」で対応してくれる弁護士事務所であれば、被害者にとってリスクはありません。

初回は無料で相談してくれる弁護士事務所も多いので、後遺障害該当する可能性がある場合は、予想される等級や慰謝料について相談してみるといいでしょう。