交通事故でケガをしたとき、被害者は治療費や慰謝料などが補償されます。ただし、ケガをすれば無条件で補償されるのではなく、「どこをケガしたのか」ということを証明する必要があります。

そこで、ケガを証明するために必要なのは「診断書」です。 被害者は医師の診断を受けずに自覚症状を基準にケガを訴えても、治療費などが補償されることはありません。

診断書は病院に行けば容易に取得できるものですが、記載内容によって補償に大きな影響を及ぼします。ここでは、診断書の正しい知識について解説していきます。

診断書の役割

交通事故の補償は基本的に書面で審査されますが、このとき最も重要なのが診断書と言えます。診断書に記載された部位のみが「交通事故で負傷した」という判断をされるため、被害者は診断時に痛めた部位を細かく医師に伝えなくてはいけません。

例えば、「首のあたりが痛い」「足が痛い」という抽象的な表現は避けましょう。医師に症状を伝えるときは「首から右肩にかけて痛みが強く、動かすとシビレが出る」や、「歩くときに膝の外側と足首の外側が痛い」というようなものです。

なぜ、ここまで細かく症状を伝えなければならないかと言いますと、診断書に記載されていない部位は「交通事故でケガをしていない」とされるからです。

交通事故では「最初は首だけ痛みがあったけど、徐々に腰も痛くなって来た」というように、数日後に痛みの出る部位が増えることがよくあります。このとき診断書に「頚椎捻挫」など、首のケガしか記載されていないと腰の治療費は認められないため被害者は不利になります。

痛めた部位をしっかりと治療してもらうために、診断のときは痛みの強い部位だけでなく違和感がある部位も伝えておくようにしましょう。

診断書を作成できるのは医師のみ

交通事故のケガを証明する診断書を発行できるのは医師のみです。整骨院への通院も補償の対象になりますが、整骨院の先生は「柔道整復師」という資格になるので、診断書を出すことはできません。そのため、整骨院に通院する場合でも事故直後に医師から診断を受けましょう。

また、運悪く誠意のない医師が担当してしまうと、被害者の訴えた負傷部位を診断書に記載してくれないことがあります。そのままでは被害者にとってデメリットしかないので、転院をした方がいい場面もあります。

転院先の医師から新たに診断を受けて、実際に負傷しているところを診断書に記載してもらいましょう。このとき、交通事故から数ヶ月経過してから診断内容が変わるのは認められませんが、事故から1ヶ月前後のうちに診断部位が増えることは問題ありません。

ちなみに診断書の料金は病院によって異なりますが、だいたい3000円〜5000円程度になることが多いです。診断書の取得費用も補償されますので、必ず領収書を保管しておきましょう。

事故後2週間以内に診断書を取得しなければならない理由

交通事故でケガをしたときは、できるだけ早めに医師から診断を受ける必要があります。具体的な期間で言いますと、事故発生から2週間以内に診断を受けなくてはなりません。

事故から2週間以上経過してから通院しても、「このケガは交通事故と因果関係がない」と判断されてしまうので注意が必要です。実際に交通事故で負ったケガであっても診断を受けるのが遅いことで、被害者は治療費などの補償をされなくなります。

もし、症状が激痛でなくても大丈夫です。「鈍痛」「違和感」といった症状であってもケガとして扱われるので、交通事故のあとは必ず2週間以内に医師から診断を受けましょう。

診断書の提出先について

診断書は「交通事故でどの部位をケガしたのか」を証明するものですが、取得したあとは警察に提出するのが一般的な流れです。警察に診断書を提出することで、物損事故扱いから人身事故扱いに切り替わり、加害者に罰則がなされます。

このとき、「保険会社に対して診断書を提出すべきか」と疑問に思う人が多いです。結論から言いますと、保険会社へ診断書を送る必要はありません。

診断をした病院は毎月、レセプトと呼ばれる書類に診療情報を記載して、保険会社に提出します。保険会社は病院から直接ケガの情報を得ているため、あえて被害者から診断書を送る必要はないです。このようなことから、基本的に診断書の提出先は警察のみと考えて問題ありません。

後遺障害の等級獲得への影響

交通事故によるケガが治り切らなかった場合、「後遺障害」として認定される可能性があります。後遺障害は1〜14級に分類され、等級に該当する症状があると認定されます。このとき、交通事故直後の診断内容が非常に重要です。

事故直後の診断書に後遺障害が残った部位の記載がなければ、後遺障害として認定されることはありません。例えば、後遺障害14級9号に「局部に神経症状を残すもの」という項目があります。神経症状とは「しびれ」のことです。

「首を痛めたことで手にしびれが残った」という場合、事故による首へのダメージが原因でしびれが残ったことを証明できれば、後遺障害として認定される可能性が高くなります。しかし、事故直後の診断書に首のケガに関する情報が記載されていないと、後遺障害として認定される可能性はなくなります。

私が知っている被害者の中に、医師に首の痛みを訴えていたにもかかわらず、なぜか診断書には「背部挫傷」とされた人がいます。実際に残った症状は後遺障害の基準に該当していたとても、診断書が「背中のケガ」という記載になっていたため、後遺障害申請をしても「非該当」という結果になっていました。

交通事故は書面のみで被害者の補償が決まるので、ケガの内容を証明する診断書は非常に重要です。ケガの状態を医師が忠実に記載しなかったとき、必ず痛めている部位を追加で記載してもらいましょう。

もし、診断内容を変えることを渋る先生であった場合、泣き寝入りを防ぐために転院をすることが望ましいです。

診断書に記載される治療見込み期間について

交通事故のあとに取得する診断書にはケガした部位だけでなく、「治療見込み期間」も記載されています。例えば、追突事故の被害に遭い首と腰をケガしたとき、診断書には「2週間の加療を要する見込み」と書かれることが多いです。

このとき、「治療は2週間しか認められないのでは」と考えてしまう被害者がいます。骨折などの大ケガでない限り、診断書の治療見込み期間は1〜2週間程度とされますが、実際の治療期間となることはありません。たとえ治療見込みが1週間であっても、最終的に半年程度の治療期間になることもあります。

それでは、なぜ診断書に見込み治療期間を記載する必要があるのでしょうか。それは、加害者に対する罰則の内容を決めるためです。診断書に記載された見込み治療期間によって、加害者の減点や罰金の度合いが異なります。

以下で、詳細を確認していきましょう。

治療見込み期間によって加害者の罰則内容が決まる

交通事故の加害者は、被害者の診断書に記載された見込み治療期間が長くなるほど減点や罰金が重くなります。まず、交通事故で相手をケガさせた場合は「安全運転義務違反」とされ、まず基礎点数として2点の減点が決まります。さらに診断書の見込み治療期間の内容によって、以下の罰則が追加で加算される仕組みです。

・15日未満の場合

被害者の過失がゼロだった場合は付加点数は3点になり、被害者にも過失があれば付加点数は2点になります。罰金は12〜20万円となります。

・15日以上30日未満の場合

被害者の過失がゼロだった場合は付加点数6点になり、被害者にも過失があれば付加点数4点になります。罰金は15〜30万円となります。

・30日以上3ヶ月未満の場合

被害者の過失がゼロだった場合は付加点数9点になり、被害者に過失があれば付加点数6点になります。罰金は20〜50万円となります。

・3ヶ月以上、もしくは被害者に後遺障害が残った場合

被害者の過失がゼロだった場合は付加点数13点になり、被害者に過失があれば付加点数9点になります。罰金は30〜50万円となります。

・免許停止の処分が追加される場合

加害者の付加点数が6〜8点の場合、免許停止期間は30日となります。付加点数が9〜11点の場合は免許停止期間は60日となっており、12〜14点になると90日の免許停止とされています。

以上の内容が、加害者の受ける罰則となっています。

診断書の内容によって被害者の補償が左右される

交通事故でケガをしたとき、すぐに病院で診察を受けるところまでは問題なくできるはずです。ただ、交通事故では診断する医師によって被害者の補償に影響を及ぼします。

基本的に医師は交通事故に関する知識がないことに加え、被害者だけでなく保険会社も間に入ることから「交通事故患者は早く打ち切りたい」と考える医師も多いです。例えば、被害者のケガが完治していないにもかかわらず治療を打ち切ったり、後遺障害診断書を書く際に重要事項を記載しなかったりすることがあります。

医師は唯一、被害者の「治療を継続する必要性」「後遺障害の立証」などの根拠を提示できる立場です。医師の診断が適切でなければ、たとえ優秀な弁護士が被害者の代理人になったとしても結果を覆すことはできません。

このようなことから、被害者を担当する医師は非常に重要です。もし、最初に診断してもらった医師が被害者の主張を聞き入れない対応であった場合、できるだけ早めに転院することが望ましいです。

このとき総合病院や大学病院など、大きな病院でなくても問題はありません。被害者の訴える症状を忠実に記録してくれれば、個人で開業している町医者など小さい規模であっても大丈夫です。

交通事故の被害者に理解のある病院に行くことができれば、適切な通院期間であったり納得のいく後遺障害等級を獲得できる可能性が高くなります。

診断書に記載された内容が被害者への補償に直結することを理解し、「痛みやシビレの出る箇所」「どの動きで痛みが強くなるか」など、ケガの状態を細かく医師に伝えましょう。