交通事故によるケガが治り切らなかった場合、「後遺障害」として認定される可能性があります。後遺障害は1〜14級に分類され、数が少なくなるにつれて重症度が高いとされています。

それぞれの等級ごとに細かく認定の基準が設定されており、後遺障害として認定されると等級に応じた慰謝料が支払われます。

後遺障害として認定されたときの慰謝料は非常に高額です。等級が一つ違うだけで被害者が受け取る慰謝料は数百万単位で変わることもよくあります。

例えば、交通事故により、片足の長さが反対の足に比べて短くなってしまったものは後遺障害の対象となります。片足の長さが3〜5㎝短くなったものは後遺障害10級に認定されます。さらに重症度が高くなり、片足の長さが反対の足に比べて5㎝以上短くなってしまった場合は、後遺障害8級の対象となります。

このとき10級に認定されると550万円の後遺障害慰謝料ですが、8級に認定された場合は830万円となり、約300万円も金額が異なってきます。

残った症状が少し違うだけで等級が変わり、それによって慰謝料の金額も大きく変わります。そのため、「自分の症状が何級の後遺障害の基準に該当するのか」を明確に把握しておかなくてはなりません。

ここでは1〜14級ある後遺障害のなかで8級の認定基準について解説していきます。

後遺障害として申請する前のチェック事項

交通事故が原因で残ったケガは、全て後遺障害として認定されるわけではありません。それぞれの等級で決められた基準に該当していることが、後遺障害として認定される条件になります。

そこで注意しなくてはならないのが、いくら被害者が「重症なケガを負った」と訴えても、被害者にとって納得のいく等級で認定されないことも多々あるということです。後遺障害は基本的に「書面審査」のみで判断されるため、認定されるためには慎重に準備を進めていく必要があります。

後遺障害に関する知識は、非常に複雑で専門性が高い分野です。そのため、あまり交通事故の認定に詳しくない被害者自身が後遺障害の程度を把握したとしても、納得のいく等級に認定されることは難しいです。

等級が一つ違うだけで、数百万円単位で慰謝料の額が変わります。被害者が泣き寝入りせず、適切な後遺障害の等級を獲得するには、交通事故を専門に扱っている弁護士にアドバイスしてもらうことが望ましいです。

交通事故によるケガだと証明できる

交通事故が原因で残ったケガが後遺障害の基準に該当していても、「交通事故によって発生した症状だ」と立証できなくては後遺障害として認定されません。

例えば、後遺障害8級1号に「片目の視力が0.02以下になったもの」という項目があります。被害者の視力がもともと悪く、片目が0.02以下の状態で交通事故に遭った場合は、後遺障害の対象にはなりません。これは「交通事故によるケガが原因で視力が急激に下がった」という証明ができないからです。

また、交通事故から3ヶ月以上が経過してから発生した症状は「交通事故から期間が空きすぎているので、事故との因果関係が認められない」と判断される可能性が高いです。

そのため交通事故のあとは、少しでも身体に異常を感じるようであれば、すぐ医師に症状を伝えることが大事です。たとえ交通事故によって起こった症状だとしても、医師に異変を伝える時期が遅くなれば「後遺障害として認定される可能性」は低くなってしまいます。

交通事故の直後から定期的な通院をしている

後遺障害として認定されるためには「通院状況」も重要になります。いくら症状が重くても、病院へ通院していなければ「軽症なケガ」だと判断され、後遺障害として認定されにくくなる可能性があります。そのため、交通事故のあとは「定期的に通院をして実績を残しておくこと」も大事な項目です。

交通事故では一定期間、治療を継続しても完治しなかったものは「症状固定」という、「将来的に回復が見込めない状態」として診断されます。後遺障害として申請する際は、この「症状固定」と医師に診断されてから手続きの準備を進めていくのが一般的です。

症状固定と診断される時期については、交通事故後にすぐに診断されることもあれば、数ヶ月後に診断されることもあります。

例えば、「手の指を切断した」という症状は手術後に後遺障害が確定しているので、交通事故からすぐに症状固定と診断を受けます。また「肘や手首などの拘縮」などは、数ヶ月単位でリハビリをしてから症状固定と診断されることが多いです。

後遺障害8級の認定には、「最低6ヶ月以上の通院実績がないと後遺障害として申請できない」という項目がないので、被害者だけで判断するのは非常に難しいです。

交通事故のあとはできるだけ早く弁護士に相談をして、「いつ症状固定にするか」などを準備していくことが望ましいです。

症状固定にする時期は非常に重要なポイントとなるので、「後遺障害が残りそうだ」と感じたら、すぐに交通事故知識に優れた弁護士に相談するのが泣き寝入りのリスクを減らすことにつながります。

残った症状を画像や数値で立証できる

後遺障害は、画像や数値で客観的に重症度を立証できるものが認定されやすくなります。これを「他覚的所見」といい、第三者が客観的に症状を判断できるものが重要となります。そのため、症状がいくらひどくても「自覚症状」は後遺障害の審査基準に入りません。

「足の指を切断した」という症状は画像で容易に立証できます。ただし、視力や関節の可動域など数値を自分でコントロールできるものは注意が必要です。

例えば、視力検査をしたときに見えているにもかかわらず「見えない」と答えたり、実際には肘が曲がるのに「肘の関節が動かない」と答えたりするものです。このときは、より精密な検査をして症状を立証していく必要があります。

「失ったもの」と「用を廃したもの」の違いについて

後遺障害8級では「〜を失ったもの」「〜の用を廃したもの」という言葉が出てきます。

まず「失ったもの」とは「手足の指が根元から切断されたもの」です。一方で「用を廃したもの」とは、「指先から切断したもの」「可動域が半分以下になったもの」「感覚が完全になくなったもの」をいいます。

後遺障害8級として認定される症状

1号:1眼が失明し、または1眼の視力が0.02以下となったもの

交通事故のケガにより片目を失明してしまった場合か、片目の視力が0.02以下に低下したものが後遺障害8級の対象となります。

視力を測定するときは裸眼ではなく、メガネやコンタクトレンズを装着した矯正視力が基準です。

そのため、裸眼のときに視力が0.02以下であっても後遺障害8級の対象にはなりません。メガネやコンタクトレンズで視力を矯正できるからです。

また、交通事故が発生する以前から視力が悪いこともあります。もともとの視力が0.02以下の場合は、視力低下が交通事故によるものではないので後遺障害の対象にはなりません。

このとき、もう一方の眼は負傷していないものになります。片方の視力も落ちていた場合は、さらに重症度が高い等級として認定される可能性があります。

例えば、「片方の眼を失明し、もう片方の視力が0.6以下」になった場合は後遺障害7級の基準に該当し、「両眼の視力が0.1以下」になった場合は後遺障害6級の基準に該当します。

ちなみに、交通事故が原因で視力が下がり、メガネやコンタクトレンズが必要になっても、矯正視力が0.02以上であれば後遺障害の対象にはならないので注意が必要です。

2号:脊柱に運動障害を残すもの

交通事故で脊柱に障害を残したものが後遺障害の対象となります。「脊柱」とは背骨のことです。事故により背骨の可動域が狭くなったり、逆に本来は動かせない方向に動いてしまったりすることが「運動障害を残すもの」とされています。

例えば、「骨折した背骨を固定する手術をしたことで、首から背中にかけての可動域が半分以下になってしまう」「骨折した首の骨が完全に癒合せず、首が大きく動き過ぎてしまう」というものです。

後遺障害として申請する際は、上体や首などを「前屈」「後屈」「側屈」というように、可動域をさまざまな角度で計測します。

このとき、正常値とどれくらい可動制限や異常可動域があるかを立証します。

3号:1手の親指を含み2の手指を失ったもの、または親指以外の3の手指を失ったもの

交通事故によって片手の親指とさらにもう1本を失った場合と、親指以外の3本の指を失ったものが後遺障害8級の対象になります。

「指を失ったもの」とは「指が根元から切断された状態」のことです。

4号:1手の親指を含み3の手指の用を廃したもの、または親指以外の4の手指の用を廃したもの

交通事故により片手の親指とさらに3本の指の用を廃した場合と、親指以外の4本の指の用を廃したものが後遺障害8級の対象になります。

後遺障害8級3号と同じ手の指に関するものですが、4号は「失ったもの」ではなく「用を廃したもの」です。

指の「用を廃したもの」とは、「指先(第一関節)の半分以上を失ったもの」「指先の根元か第二関節の可動域が半分以下になったもの」「神経が麻痺して感覚を失ったもの」です。

また、親指に関しては「親指を立てる動作」「親指を手のひらに近づける動作」のいずれかが通常よりも半分以下になった状態も「用を廃した」とされます。

5号:1下肢を5㎝以上短縮したもの

交通事故により片足の長さが反対の足に比べて5㎝以上短くなったものが後遺障害8級の対象になります。

足を骨折してしまい、変形したまま骨が癒合することで、左右の足の長さに違いが出てしまうパターンが多いです。

片足が反対の足に比べて3〜5㎝であれば後遺障害10級に該当します。わずかな差で後遺障害の等級が変わってくるので、計測は慎重に行ってもらうことが重要です。

6号:1上肢の三大関節中の1関節の用を廃したもの

交通事故により片腕の機能に障害が残ったものが後遺障害の対象になります。上肢の3大関節とは「肩」「肘」「手首」です。

後遺障害8級の基準である「1関節の用を廃したもの」とは、肩・肘・手首いずれかの関節を自分の意思で動かせなくなった状態をいいます。具体的には「関節が強直(固くこわばること)した状態」「腕に関わる神経が麻痺した状態」などです。

「関節の可動域が低下したが、若干動く」という状態であれば、後遺障害8級よりも軽症の10級に該当します。そのため、後遺障害8級として認定されるには「関節をほとんど動かすことができない」という状態を立証しなくてはいけないので、必ず医師に細かく可動域の検査をしてもらいましょう。

7号:1下肢の三大関節中の1関節の用を廃したもの

交通事故により片足の機能に障害が残ったものが後遺障害の対象になります。下肢の3大関節とは「股関節」「膝」「足首」です。

前述した後遺障害8級6号と同じように、関節が強直したり神経麻痺したりすることで、関節を自分の意思で動かせなくなった状態が後遺障害として該当します。

膝に関しては、関節を支える靱帯を断裂することで不安定になり、常に膝関節を固定する装具を装着しなければならないものも後遺障害8級に該当します。

8号:1上肢に偽関節を残すもの

交通事故によって片腕に偽関節を残してしまったものが後遺障害の対象になります。「偽関節」とは、折れた骨がしっかりと癒合せず、グラグラと不安定な状態のままになってしまったことをいいます。

患部を固定してから6ヶ月以上経過しても癒合しなかった場合が、偽関節として診断される目安です。

たとえ偽関節であっても、ときどき患部を保護する硬性補装具を身につけることで日常生活を送ることができれば後遺障害8級の対象になります。しかし、常に硬性補装具を必要とするものは後遺障害7級の対象となります。

9号:1下肢に偽関節を残すもの

交通事故によって片足に偽関節を残してしまったものが後遺障害の対象になります。上記にある後遺障害8級8号と9号の違いは上肢か下肢かという点が違うだけで、基準の内容は同じです。

「常に硬性補装具を必要としないもの」は後遺障害8級の基準に該当し、「常に硬性補装具を必要とするもの」は後遺障害7級の基準に該当します。

10号:1足の足指の全部を失ったもの

交通事故によって片足全ての指を失ったものが後遺障害8級の対象となります。「指を失う」とは、指の根元から切断された状態のことをいいます。

後遺障害8級として認定されたときの慰謝料について

交通事故によるケガが治らずに、後遺障害として認定された場合は「後遺障害慰謝料」が支払われます。このとき被害者は、後遺障害慰謝料は3つの算定基準があることを認識しておかなくてはなりません。

3つの算定基準とは「自賠責保険基準」「任意保険基準」「弁護士基準(裁判基準)」です。同じ後遺障害8級であっても、3つの基準は異なり慰謝料の金額が大きく違います。

自賠責保険基準では324万円となり、3つある基準のなかでは最も低い金額となります。自賠責保険は「最低限度の補償」が目的のため、非常に低い金額設定となっています。

任意保険基準は保険会社が独自の算定基準で慰謝料を計算するため、内容は原則的に非公開となっております。実際のところは自賠責保険基準よりわずかに高い、400万円前後で慰謝料を設定していることが多いです。

3つある基準のなかでは弁護士基準が最も高い金額になります。別名「裁判所基準」とも言われ、過去の裁判例から慰謝料を決めていきます。これは「民事交通事故訴訟 損害賠償算定基準(赤本)」という本に記載されている内容が基準となっています。

後遺障害8級では、弁護士が被害者の代わりに交渉をすることで最大830万円まで慰謝料が増額します。自賠責保険基準と比べると約500万円の違いになります。将来的にかかるであろう医療費を考慮すれば、弁護士に示談交渉をしてもらう方が賢明と言えます。

自賠責保険基準と弁護士基準で慰謝料の額が大きく違うのは理由があります。自賠責保険では「最低限度の補償」とされていますが、弁護士基準は「妥当な金額まで増額してもいい」とされている点です。そのため、弁護士基準で算出された慰謝料が被害者にとって適切な金額と考えるといいでしょう。

弁護士費用について

普段から弁護士と接点がある人は少ないです。そのため「弁護士費用は高額になる」とイメージしている人は多いです。しかし、弁護士費用をかけずに、弁護士を雇う方法があります。その方法とは、まず自分が加入している任意保険を確認してみることに始まります。

任意保険のプランの中にある「弁護士費用特約」に加入していれば、保険会社が弁護士費用を300万円まで補償してくれます。適用範囲も広く、被害者自身が弁護士費用特約に加入していない場合でも、被害者の家族が弁護士費用特約に加入していれば補償の対象になる可能性があります。

保険会社によって弁護士費用特約の適用範囲が微妙に異なりますが、まず確認しておくべきものが弁護士費用特約になります。

弁護士費用特約は、使用しても等級が変わりません。そのため、保険料が高くなることがないので非常に優れた特約です。弁護士費用特約を使うリスクは全くないので、加入していれば迷わず使うプランといえます。

もし、弁護士費用特約に未加入であっても、弁護士費用をかけずに済む方法が他にもあります。「着手金なし」「完全成功報酬」で対応してくれる弁護士事務所であれば、被害者にとってリスクはありません。

初回は無料で相談してくれる弁護士事務所も多いので、後遺障害に該当する可能性がある場合は、予想される等級や慰謝料について相談してみましょう。