交通事故でケガを負い治療を継続しても、完治しなかった場合は「後遺障害」として認定される可能性があります。後遺障害は1〜14級まであり、数が少なくなるほど重症度が高いとされています。それぞれの等級によって細かく条件が設定されており、後遺障害を認定されると等級に応じた慰謝料が支払われます。

後遺障害として認定されたときの慰謝料は高額になり、等級が一つ違うだけで被害者の補償額は数百万円単位で変わることが珍しくありません。

例えば、耳の後遺障害ではdBという単位を用いて等級を判断していきます。片耳の聴力が80〜90dB未満と診断されると、後遺障害10級に該当します。片耳が90dB以上の音でなければ聞き取れない状態だと9級に該当します。

このとき10級に認定されると550万円の後遺障害慰謝料ですが、9級に認定された場合は690万円となり、140万円も金額が異なってきます。

残った障害の状態が少し違うだけで等級が変わり、慰謝料の金額が大きく変わります。そのため、「自分が何級の後遺障害に該当するのか」「後遺障害のい申請行うにはどのタイミングにすればいいか」を慎重に判断しなくてはなりません。

ここでは、1〜14級ある後遺障害のなかで9級の認定基準について詳しく解説をしていきます。

もくじ

後遺障害として申請する前の確認事項

交通事故で負ったケガが残った場合、全て後遺障害として認定されるわけではありません。それぞれの等級で決められた基準に該当した場合に、後遺障害として認定されます。

そこで注意しなくてはならないのが、いくらケガが重症であっても被害者にとって後遺障害が納得のいく等級で認定されないこともあります。後遺障害が認定されるには基本的に「書面審査」のみで判断されるため、緻密に準備を進めていかなくてはなりません。

このとき重要なのが「自分がどの等級に該当する可能性があるのか」ということを明確に把握しておくことが必要です。ただ、後遺障害という分野は非常に複雑で専門性が高いため、被害者だけで後遺障害の程度を把握し、自分が納得するような認定を取ることは困難です。

後遺障害は等級が一つ違うだけで金額が百万円単位で変わります。被害者が泣き寝入りせず適切な後遺障害の等級を獲得するためには、交通事故の知識に優れた弁護士にアドバイスをもらうのが望ましいです。

交通事故によるケガだと証明できる

交通事故で負ったケガが残ったとき後遺障害の基準に該当していても、「そのケガが交通事故で発生したものだ」という証明ができないと後遺障害として認定されません。

例えば、後遺障害9級1号に「両眼の視力が0.6以下になったもの」という項目があります。もともと視力が悪く両眼が0.6以下の状態で交通事故に遭った場合、後遺障害の対象にはなりません。「交通事故によるケガが原因で急激に視力が下がった」という証明がないからです。

また、交通事故から3ヶ月以上経過して発生した症状は「交通事故から期間が空き過ぎているため、事故との因果関係が認められない」とされる可能性が非常に高いです。

そのため交通事故のあとは、身体に少しでも異変を感じたらすぐに医師へ症状を伝えることが重要になります。たとえ交通事故による症状だとしても、医師に伝える時期が遅くなれば後遺障害に認定されない場合も出てきます。

交通事故の直後から定期的に治療をしている

後遺障害として認定されるには「通院状況」も重要な項目になります。いくらケガの状態が悪くても、病院へ通院していなければ「ケガは軽症だ」と判断され、後遺障害として認定されにくくなります。交通事故に遭ってから「定期的な治療を継続している」という実績が大事です。

交通事故では一定期間、治療をしても治り切らなかった場合は「症状固定」という、「今後の回復が見込めない状況である」と診断されます。後遺障害として申請する際は、この「症状固定」と診断されてから申請の手続きを始めていくのが一般的です。

症状固定と診断されるには、むち打ちなどの骨に異常のないケガは基本的に「6ヶ月以上の通院実績」が必要です。「手や足を切断した」「聴力が低下した」などという症状は、6ヶ月の通院に達する前に後遺障害として申請することもあります。

そのため後遺障害9級の症状は、とくに6ヶ月以上の通院実績はあまり気にしなくても大丈夫です。ただし、症状固定とするタイミングに幅がある分、被害者だけで判断するのは難しいのが現状です。

交通事故からできるだけ早い段階で弁護士に相談をして、「どのタイミングで症状固定にするか」という準備をしていくことが望ましいです。それにより、症状固定のタイミングを誤るリスクが減ります。

ケガがひどく「後遺障害が残りそうだ」と感じたら、すぐに交通事故に強い弁護士に相談をするのがやはり安心する方法です。

ケガの状態を画像や数値で立証できる

後遺障害は、画像や数値で重症度を立証できるものが認定されやすくなります。これを「他覚的所見」といい、第三者が客観的に判断できるものが重要となります。そのため、症状がいくらひどくても、「自覚症状」は後遺障害の審査基準に入りません。

「指を切断した」「顔に傷が残った」という症状は画像で明確に証明できます。ただし、視力や聴力など数値を自分でコントロールできるものは注意が必要です。

例えば、視力検査をして見えているものを「見えない」と答えたりするものです。このときは脳波を使った検査をするなどして、精密検査を受ける必要が出てきます。

「失ったもの」「用を廃したもの」について

後遺障害9級では「〜を失ったもの」「〜の用を廃したもの」という言葉が出てきます。

まず「失ったもの」とは「手足の指が根元から切断されたもの」です。一方で「用を廃したもの」とは、「指先から切断したもの」「可動域が半分以下になったもの」「感覚が完全になくなったもの」をいいます。

後遺障害9級として認定される症状

1号:両眼の視力が0.6以下になったもの

交通事故によるケガで両眼の視力が0.6以下になったとき、後遺障害9級として認定されます。視力の検査は裸眼ではなく、メガネやコンタクトレンズを装着した矯正視力が基準となります。

そのため、いくら裸眼のときの視力が低くても、矯正視力が0.6以上であれば後遺障害9級の対象とはなりません。

また、交通事故が発生する以前から両眼の矯正視力が0.6以下で、もともと視力が低い人もいます。この場合は、視力の低下は交通事故が原因でないため、後遺障害の対象とはなりません。

ちなみに交通事故が原因で視力が下がり、分厚いメガネが必要になったとしても、矯正視力が0.6以上であれば後遺障害の対象にはならないので注意が必要です。

2号:1眼の視力が0.06以下になったもの

交通事故でのケガにより片目の視力が0.06以下になってしまったとき、後遺障害9級の対象となります。

裸眼ではなく、メガネやコンタクトレンズを装着した状態での矯正視力が基準です。

もちろん、交通事故以前から片目の視力が0.06以下である人は後遺障害に該当しません。

3号:両眼に半盲症、視野狭窄または視野変状を残すもの

交通事故のあとに視野障害が残ったものは後遺障害として認定される可能性があります。両眼に「半盲症」「視野狭窄」「視野変状」といわれる症状が残ったときは、後遺障害9級に該当します。

まず「半盲症」とは視力と関係なく、「視野」が左右や上下の半分になる症状のことをいいます。視野が半分になるパターンにはいくつかあります。

一つ目は「同名半盲」です。これは両眼の左側もしくは右側のどちらか半分が欠けて見えなくなる症状のことをいいます。二つ目は「異名半盲」です。こちらは両眼の鼻側(内側)または耳側(外側)のどちらか一方が見えなくなる症状があります。

さらに三つ目として「水平半盲」という症状もあります。「同名半盲」「異名半盲」は視野の左右どちらかが欠けたものでしたが、こちらは視野の上半分もしくは下半分のどちらかが欠けてしまうものです。

左右もしくは上下のどちらかの視野が欠けてしまったものは半盲症の可能性が高いです。

次に「視野狭窄」です。これは半盲症のように視野が欠けてしまうのではなく「視野が狭くなる」という症状です。視野が狭くなってしまうパターンにもいくつかあります。

視野全体が狭くなってしまう「求心狭窄」という症状が出ることもあれば、「不規則狭窄」という視野の一部分だけが見えなくなる症状もあり多様です。

最後に「視野変状」の説明をします。こちらは視野の一部分だけが見えなかったり、視界にいくつか穴が空いたようになり見えない部分が出てきてしまったりする症状です。

視野に異常が出る症状は、「交通事故との関連がない」と考えてしまいがちですが、事故の衝撃で視神経にダメージを受けることはよくあります。そのため、交通事故のあとで視野に異変を感じたら、すぐに眼科で検査をしてもらいましょう。

4号:両眼のまぶたに著しい欠損を残すもの

交通事故によるケガでまぶたが欠けてしまい、眼を閉じても両眼の「角膜(黒目)を完全に隠せない」状態の場合は後遺障害9級に該当します。

角膜(黒目)ではなく、白目の部分だけが隠せない状態では後遺障害9級より軽症だとされる13級の該当となります。また、片目の角膜だけが隠れない状態だと11級です。

「両眼・片目」「角膜が隠れるのか、隠れないのか」によって等級が大きく変わるので、眼科の医師に精密な検査をしてもらうことが大切です。

5号:鼻を欠損し、その機能に著しい障害を残すもの

交通事故のケガで鼻を失い、嗅覚や呼吸機能に大きく低下したものは後遺障害9級に該当します。「鼻を失う」とは、「鼻の軟骨を全部失う」もしくは「鼻の大部分を失う」ものが後遺障害の対象となります。

ただし、鼻を失えば「見た目」に大きな影響が出ます。このとき、外貌が醜くなったとして「醜状障害が残った」と捉えることができます。

「鼻の機能」ではなく、「鼻を失うことで外貌に醜状を残した」と捉えられると、より補償額が高くなる後遺障害7級として認定されます。

後遺障害9級では最大690万円の慰謝料ですが、7級として認定されると最大1000万円の慰謝料になります。そのため、鼻を失った場合は、後遺障害9級ではなく7級として申請することが多くなります。(※この場合の慰謝料は弁護士が示談交渉をしたときの金額となります)

6号:咀嚼(そしゃく)および言語の機能に障害を残すもの

交通事故が原因で、咀嚼(そしゃく)機能(食べ物を噛んで飲み込むまでの働き)と、言語障害(言葉を話す機能)の両方に障害を残した場合は後遺障害の対象となります。

咀嚼機能障害の目安として、「ご飯」「うどん」「煮魚」「ハム」など柔らかいものは食べられるのですが、「たくあん」「ピーナッツ」「らっきょう」など硬い食べ物は十分に咀嚼できず飲み込みにくい場合をいいます。

言語機能障害は、「子音の発声」に障害が残ったものをいいます。子音は4種類あり、「口唇音」「歯舌音」「口蓋音」「咽頭音」に分類されます。

口唇音:「ま」「ぱ」「ば」「わ行」「ふ」

歯舌音:「な」「た」「だ」「ら」「さ」「ざ行」「しゅ」「じゅ」「し」

口蓋音:「か」「が」「や行」「ひ」「にゅ」「ぎゅ」「ん」

咽頭音:「は行」

これら、4つの子音のうち1種類でも子音の発声に障害が残れば後遺障害として認定される可能性が出てきます。

後遺障害10級3号も9級6号も同じような基準となっています。10級では「咀嚼または言語機能に障害を残すもの」、9級では「咀嚼及び言語の機能に障害を残すもの」との記載があります。

咀嚼機能もしくは言語機能のどちらか一方に障害が残ったものが後遺障害10級の対象です。咀嚼機能と言語機能のどちらか一方ではなく、両方とも障害が残ったものが後遺障害9級の対象となります。

7号:両耳の聴力が1m以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの

会話する相手が1m以上離れてしまうと、普通の話し声を聞き取れなくなるほど両耳の聴力が低下してしまったものが後遺障害の対象となります。

「ピー」という単純な音を聞き取る聴力検査で、60dB以上の音を聞き取れないと判断されたものが後遺障害9級に該当します。60dBとは「静かな乗用車」「普通の会話」が目安となります。

また、聴力が50dB以上で言語明瞭度が70%以下のものも後遺障害の対象になります。この言語明瞭度とは、言葉をどれくらい理解ができているかを数値で出したものです。聴力50dBの目安としては「大きな声であれば普通の会話が可能」「エアコンの室外機ほどの音」が聞き取れないものに該当します。

言語明瞭度を検査するときは「あ」「か」「さ」「た」「な」など、「20個の単音をどれくらい聞き取れるか」について確認します。この検査では明瞭度が80%以上であれば補聴器などが無くても日常生活では困らないレベルとされています。

明瞭度が70%以下になると、話し相手が少し離れたり、聞き慣れない単語が出てきたりすると正確に言葉を理解できません。このような場合は、ほとんどのケースで補聴器が必要になります。

交通事故の際、頭部や首に衝撃を受けたことが原因で聴力障害が発生することがあります。また、耳に直接衝撃を受けていなくても聴力に異常が発生する可能性があります。事故後に聴力に異変を感じるようであれば、すぐに耳鼻科医の診察を受けましょう。

8号:1耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になり、他耳の聴力が1m以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になったもの

後遺障害9級8号は7号と同じで両耳の症状に関するものですが、7号と8号では聴力の基準値に違いがあります。

「耳に接しなければ大声を解することができない」とは、具体的な数値で表すと80dB以上90dB未満の聴力になったものを指します。80dBは「大きな声で会話する」「電車が駅のホームに入ってくるときの音」で、90dBは「怒鳴り声」「叫び声」といったかなり大きい音が目安となります。

聴力が「1mの距離では普通の声を解することが困難である程度」とは、50dB以上の音でなければ聞き取れないものを指します。50dBは「大きな声であれば通常の会話が可能」「エアコンの室外機ほどの音」が目安になります。

以上のことから片耳が80〜90dB未満の聴力になり、反対の耳が50dB以上の音でなければ聞こえないという状態になった場合は後遺障害9級の対象となります。

9号:1耳の聴力を全く失ったもの

後遺障害7号と8号は両耳の症状でしたが、9号に関しては片耳の障害になります。

「聴力を失ったもの」とは、聴力レベルが90dB以上になっても聞こえない状態を指します。この90dBとは「カラオケの音(店内中央)」「直近での犬の鳴き声」「騒々しい工場の中」が目安となります。

90dBの音が聞き取れない程度の聴力になると、通常の会話はほとんど不可能となります。そのため「聴力を失った」と判断されます。

10号:神経系統の機能または精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの

交通事故によるケガで、神経系統や精神面に障害が残り、労働力が制限された状態になると後遺障害の対象となります。具体的な症状といえば「脳神経障害」と「うつ」です。後遺障害9級では健常者と同じ一般の職業に就くことはできますが、「労働力が35%ほど低下した」と判断された場合は後遺障害として認定されます。

脳神経障害の症状は以下のようなものがあります。

高次脳機能障害:頭部への強い衝撃が原因で脳挫傷を発症し、記憶力や判断力の低下がみられる状態です。問題解決能力に障害が残るため、作業効率や作業を維持する能力に問題が生じます。また、怒りやすくなるなど感情の起伏が大きくなる症状がでる人もおり、対人関係を築けないケースも高次脳機能障害として該当する場合もあります。

・手足の麻痺:脊髄損傷などによって手足が麻痺して、文字を書くことや歩くことができなくなる状態を指します。これが原因で「労務の効率が下がる」と判断されるケースです。

・精神障害:「うつ」などの精神障害によって労働力が下がる状態です。これは脳に損傷がない場合でも後遺障害の対象となります。また実際のところ、うつの症状がひどくても交通事故との因果関係の証明をすることが難しいとされています。

・外傷性てんかん:「てんかん」により、労務を継続することができない状態が後遺障害9級に該当します。9級に該当するてんかん症状とは、発作頻度は数ヶ月に一度程度というケースが多いものです。また、薬を継続的に服用すれば症状を抑えることができる場合も後遺障害の対象となります。

通常の労務ができる状態であっても、てんかんを発症する可能性があれば、仕事に支障をきたしてしまう場合も後遺障害の対象になります。例えば、「てんかん発作が起こる可能性があるため車の運転ができない」などがこれに当たります。

また十分に治療や薬を服用しているにもかかわらず、てんかんを頻繁に発症するのであれば後遺障害9級ではなく、より重症度の高い7〜1級に該当する可能性があります。

・頭痛:事故時の頭部への衝撃や、衝撃による脳神経へのダメージによって頭痛を発症する場合があります。ただし、労働できないほどの頭痛が起こっているとしても、交通事故との因果関係を証明することが非常に難しいのが実態です。そのため、ひどい頭痛で労働ができない場合でも、後遺障害の認定を受ける確率は低いということを認識しておきましょう。

・めまい:日常的に強いめまいを感じているものが後遺障害に該当します。これは耳鼻科で平衡感覚を調べる検査によって、明らかに異常な検査値が出たときに後遺障害として認定される可能性があります。

11号:胸腹部臓器の機能に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの

交通事故が原因で内臓にダメージが残り、労務に支障をきたす場合は後遺障害の対象となります。以下のように、それぞれの臓器によって後遺障害の基準は細かく設定されています。

・呼吸器:肺の機能が低下することです。動脈血の酸素分圧が60〜70Torrになった場合は後遺障害9級の対象になります。目安として、健常者は100Torr前後の数値が一般的です。

ちなみに、動脈血の酸素分圧というのは血液に酸素を送り込む肺の能力を表し、「Torr」は圧力を表す単位のことです。

・循環器(心臓):心臓機能が低下して「6METsを超える強度の身体活動が制限されるもの」があります。METsとは、酸素の摂取量を測定する単位で、「どれだけの運動強度があるのか」を測定するものです。具体的には「平地を早歩きをする」「一般の人と同じ速度で階段を上る」という活動が行えなくなった状態が後遺障害9級に該当します。

事故により心臓機能に異常をきたし「ペースメーカ」を心臓に植え込んだものも後遺障害の対象になります。

他にも事故が原因で「心臓の弁(房室弁・大動脈弁)」に処置をして「抗凝血薬療法(血液が固まらないための薬)」を継続的に必要となった場合も後遺障害の対象となります。

・食道:事故の衝撃で食道が狭窄(狭くなること)することで、食べた物がのどを通過しにくくなる(通過障害)と後遺障害の対象となります。

・胃:事故により「胃の全て、もしくは一部を失い、それに伴い『ダンピング症候群』『逆流性食道炎』などが症状として現れた」場合は、後遺障害の対象となります。

「ダンピング症候群」とは、胃を切除することで食べた物を溜めておく機能が低下し、通常よりも急激に胃から小腸へ流れてしまいます。それが原因で消化不良を引き起こし「腹痛」「下痢」など、さまざまな消化器症状を引き起こします。

「逆流性食道炎」は胃液や胃の内容物が食道に逆流することで、食道の粘膜が炎症を起こしてしまうことです。自覚症状としては「胸やけや胸の痛み、胃のムカムカ」などが挙げられます。症状が強いときには嘔吐することもあります。

・小腸:小腸を切除し、空腸と回腸の長さが100cm以下になったものが後遺障害9級の対象となります。小腸の長さは約3mとされているため、手術の際に切除した小腸の長さを測定することで、残存した小腸の長さが判断されます。

・大腸:排便に関係する神経を損傷することで、「排便回数が週2回以下になる」「用手摘便(手で便を搔き出すこと)を要する便秘」症状になったときは後遺障害の対象となります。

また、便を失禁してしまうことで、常におむつの着用が必要な状態も後遺障害の対象となります。

・肝臓肝硬変になり、なおかつ血液検査の肝臓機能の項目であるGOT(AST)・GPT(ALT)が、肝硬変初期の頃と比較して持続的に低値を示すものが後遺障害の対象となります。

基準値はGOT(AST)・GPT(ALT)ともに35IU/I以下となっています。GOT(AST)・GPT(ALT)が基準値よりも継続的に高値を指示している場合は、「肝臓に障害が残った」と判断されます。肝硬変の場合、慢性肝炎よりも高値を示すことはありませんが、AST>ALTが診断基準の一つとなります。

仮に「肝硬変」ではなく「慢性肝炎(AST>ALT)」であった場合、後遺障害9級ではなく症状が少し軽いとされる11級の認定基準に該当します。

慢性肝炎から肝硬変に移行する場合がありますが、症状固定のときの診断が基準になります。そのため、慢性肝炎から肝硬変になったとしても症状固定のときに慢性肝炎であれば、後遺障害の認定は11級になります。

・膵臓:膵臓では、「外分泌機能の障害」と「内分泌機能の障害」の両方に障害が認められるものが9級の後遺障害の対象となります。

外分泌機能は、膵臓の一部分を切除すると外分泌機能が障害されます。「脂肪便(消化されない脂肪が便と一緒に排出されるもの)」「頻回の下痢」などの症状が表れ、「上腹部痛(おなかの上の部分の痛み)」によって労務に支障をきたすものが「外分泌機能に障害が残った」と判断されます。

また、膵臓を切除していなくても損傷したことが画像によって証明することができ、なおかつ「PFD試験で70%未満」「糞便中キモトリプシン活性で異常数値」「アミラーゼまたはエラスターゼの異常低値」は外分泌機能に障害が残った診断とされます。

内分泌機能の障害の有無は、「経口糖負荷試験」で行われます。この検査で、「境界型」または「糖尿病型」と診断され、インスリン異常低値を示すと内分泌機能に障害が認められます。また、もともと2型糖尿病である方は該当しません。

・泌尿器:泌尿器の後遺障害では腎臓に関する内容が多いです。

「腎臓を失いGFR51〜70ml/分になった」「腎臓を失ってはいないがGFR31〜50ml/分になった」というものがあります。GFRとは、腎臓機能を表す数値です。

この他、尿失禁が日常的に起きてしまうものも後遺障害の対象となります。

12号:1手の親指または親指以外の2の手指を失ったもの

片手の親指を失ってしまった場合、もしくは親指以外の2本の指を失ってしまった場合が後遺障害9級の対象となります。

手の指を「失う」とは、「指が根元から切断された状態」のことです。もし、手の指が根元からではなく指先を切断されたものであれば「用を廃す」とされます。2本の指が「用を廃す」状態であれば、後遺障害9級よりも一つ軽い10級の対象となります。

13号:1手の親指を含み2の手指の用を廃したもの、または親指以外の3の手指の用を廃したもの

親指ともう1本、2本の指の用を廃した場合と、親指以外の3本の指の用を廃したものが後遺障害9級の対象です。

後遺障害9級12号と同じく手の指に関する内容ですが、13号は「失ったもの」ではなく「指の用を廃したもの」になります。

指の「用を廃したもの」とは、「指先(第一関節)の半分以上を失った状態」「指先の根元もしくは第二関節の可動域が半分以下になった状態」「神経が麻痺して感覚を失った状態」です。また、親指に関しては「親指を立てる動作」「手の平につける動作」のいずれかが通常の半分以下になった状態も「用を廃した」とされます。

14号:1足の第一の足指を含み2以上の足指を失ったもの

片足の親指と、さらにもう1本、別の指を失ったものは後遺障害9級の対象となります。

「失う」とは、手の後遺障害の基準と同じく「指が根元から切断された状態」のことです。もし、足の指が根元からではなく指先を切断されたものであれば「用を廃す」とされます。

15号:1足の足指の全部の用を廃したもの

片足の指すべてが「用を廃す」状態になったものは後遺障害9級の対象となります。

後遺障害9級15号での「用を廃す」という基準は、「指先(第一関節)を切断して長さが半分以下になった状態」「片足の親指以外の全ての指を第一関節から根元までの間を切断したもの」「片足の指すべての可動域が半分以下になったもの」とされています。

16号:外貌に相当程度の醜状を残すもの

「外貌」というのは「見た目」を表すもので、交通事故のケガが原因で傷が残ってしまったものが後遺障害に該当します。これは身体に残る傷の全てではなく、「頭」「首」「顔」の傷が後遺障害の対象です。要は、衣服で隠すことができない部位になります。

後遺障害9級の「相当程度の醜状を残すもの」というのは、具体的に「顔に5㎝以上の線上の傷がはっきりと確認できるもの」を指しています。これは手術跡も含まれます。

また「人目につくもの」という基準もあります。そのため「眉毛や前髪で隠れる傷跡」というのは9級の後遺障害として認定されにくい傾向にあります。

この「人目につくもの」ですが、医師の判断ではなく、後遺障害の審査をする自賠責保険調査事務所の人が判断をします。基本的に後遺障害の審査は書面のみで進められるのですが、外貌に関しては調査員と面接をする場合があります。このとき後遺障害の判断は客観的な判断ではなく、調査員の主観が入る可能性が高いです。

例えば、女性被害者に傷跡が残ったとします。後遺障害の基準を満たしていて、この女性は残った傷跡を「非常に苦痛だ」と感じています。しかし傷跡が額にあった場合、「前髪を伸ばせば傷を隠せるから人目につかないようにできる」「この部分は目立たないから計測しないでおこう」という判断をされることもあります。

傷跡もどこまで正確に計測してもらえるかも調査員によって変わります。線上の傷が5㎝以上あっても、そのうち1㎝は傷跡が薄かったりすれば4㎝と判断されることもあるので注意が必要です。そのため、自賠責保険調査委員との面談があるときは代理人と一緒に行くのが理想です。

代理人として被害者に付き添ってくれる弁護士がいれば、「調査委員が行う傷跡の計測方法に不備がないか」もチェックしてくれるので不安感を無くすことができます。

また外貌醜状は、女性だけではなく男性も後遺障害に該当します。とくに性別による区別はありません。

17号:生殖器に著しい障害を残すもの

交通事故のケガによって生殖器の一部を失ったり、機能が正常ではなくなったりしたものが後遺障害の対象となります。

男性であれば「陰茎の大部分を欠損したもの」というものが該当します。これは「性行為の際、陰茎を膣に挿入できない状態」に限ります。

また、「勃起障害」「射精障害」を残すものは後遺障害9級に該当します。

女性であれば「膣口狭窄」を残したものが後遺障害の対象となります。これは「性行為の際に陰茎を膣に挿入することができない状態」に限ります。

また、「卵管の両側が閉鎖してしまったもの」「癒着を残したもの」「子宮を失ったもの」「子宮の頚管に閉塞を残したもの」が、画像によって証明できた場合も後遺障害の対象となります。

後遺障害9級として認定されたときの慰謝料について

交通事故で負ったケガが治らずに後遺障害が認定されたときは「後遺障害慰謝料」が支払われます。このとき被害者は、後遺障害慰謝料の算定基準が3つあることを必ず知っておかなくてはいけません。

それは「自賠責保険基準」「任意保険基準」「弁護士基準(裁判基準)」の3つです。同じ後遺障害9級だとしても、3つの基準は異なり慰謝料の金額が大きく変わります。

自賠責保険基準では慰謝料が245万円となっており、3つある基準のなかで最も低い金額となっています。自賠責保険基準は「最低限度の補償」が目的となっているため、非常に低い金額設定となっています。

任意保険基準は保険会社が独自の算定基準で慰謝料を割り出すため、内容は原則的に非公開となっています。実際のところは自賠責保険基準より少しだけ高く、300万円前後で慰謝料を設定していることが多いです。

弁護士基準は3つある基準の中で最も高い慰謝料となっています。弁護士は過去の裁判例をもとに、妥当な範囲まで慰謝料を増額させる交渉をしてもいいとされています。そのため、弁護士が示談交渉をすることで9級の場合、最大690万円まで慰謝料を引き上げることが可能になります。

最低限の補償とされる自賠責保険と比較すると400万円以上の差が出ます。同じ等級であっても弁護士が示談交渉することで、これだけ大きく被害者の補償額が変わるのです。

後遺障害が残ると、将来的に医療費が高額になることが大半です。一度示談が成立してしまうと、その後の治療費は補償の対象外になります。後遺障害の慰謝料は高額ですので、弁護士に示談交渉をしてもらうのが賢明といえます。

弁護士費用について

一般的に普段から弁護士と関わりを持っている人は少ないです。そのため、「弁護士費用が高額だ」というイメージを持っている人が非常に多いです。このときは、まず自分が加入している任意保険(自動車保険)のプランを確認してみましょう。

任意保険のプランの中にある「弁護士費用特約」に加入していれば、保険会社が弁護士費用を300万円まで補償してくれます。適用される範囲も広く、被害者本人が弁護士費用特約に加入していなくても、被害者の家族が加入していれば補償対象になることがあります。

各保険会社のプランによって適用範囲が異なりますが、真っ先に確認しておくべきものが弁護士費用特約になります。

弁護士費用特約は、たとえ使用したとしても等級が変わりません。そのため、保険料にも影響しないので非常に優れた特約といえます。弁護士費用特約を使うリスクは全くないので、加入していれば迷わず使うべきプランといえます。

仮に、弁護士費用特約に未加入であっても大丈夫です。「着手金なし」「完全成功報酬」で対応してくれる弁護士事務所であれば、被害者にとってリスクはありません。

初回は無料で相談をしてくれる弁護士事務所も多いので、後遺障害の可能性がある場合は予想される等級や賠償額についてアドバイスをもらうようにしましょう。