交通事故では発生状況をもとに「過失割合」を出していきます。基本的に過失が大きい方が「加害者」とされ、過失が少ない方が「被害者」とされています。

お互いに不注意だった点があれば50:50や15:85などのように、5%単位で細かく過失割合を算出していきます。

過失割合について詳しく知れば知るほど「同乗者にも過失が発生するのか?」「過失が発生したときは補償にどう違いがでるのか?」などといった疑問が出てくることがあります。

過失割合に応じて被害者の補償内容が決定されるため、納得のいかない過失割合を提示されたときは安易に応じてはいけません。過失割合は非常に重要な部分ですが、複雑な仕組みのため理解しにくいです。

しかし、過失割合の内容が難しいからといって、提示された内容をそのまま受け入れていては泣き寝入りの可能性が高くなります。

被害者にとって納得のいかない補償内容にならないために、ここでは過失割合について詳しく解説をしていきます。

過失割合を決めるのは保険会社

交通事故に遭った場合、まず現場に警察を呼びます。そこで警察に「事故状況を詳しく伝えて記録をしてもらう」のが一般的な流れです。このような状況から、警察が過失割合を出すと考えている人は多いです。

しかし結論からいいますと、過失割合を決めるのは保険会社です。基本的に警察は「民事不介入」といって、「刑事事件以外に踏み込んではいけない」という決まりがあるので過失割合に関与することはできません。そのため、実況見分書の作成までが警察の役割となるのです。

まずは、加害者と被害者の調書(双方の言い分)をもとに保険会社が過失割合を算出します。このとき、10:90や50:50などというように、お互いの過失割合に応じて、双方の保険会社が交渉を進めていきます。

過失割合の役割

次に過失割合が決定すれば、物損や人身(ケガの治療)の費用を負担する割合が決まります。

例えば、過失割合が50:50で、自分の車の修理費が30万円かかるケースがあるとします。

このような場合は、過失割合が50%となり、修理費30万円のうち15万円を負担する必要がでてきます。ちなみに、仮に相手の過失が100%であると認められた場合は、被害者は一切負担をする必要はありません。

このようなことから、過失割合がたった1割違うだけで被害者が受けることができる補償内容は大きく変わる可能性があるのです。

加害者の過失が大きい場合は自賠責保険からの補償は減額される

交通事故で、むちうちなどのケガを負った場合、まずは自賠責保険から補償を受けることになります。治療費や慰謝料などが大きくなり、自賠責保険の補償限度額である120万円を超える場合は「任意保険」から補償を受けます。

被害者が補償を受ける際は、自賠責保険の限度額120万円は補償されます。

しかし、過失が70%以上であるとされた加害者は自賠責保険の限度額である120万円から2割ほど減額された金額が補償内容となります。このような交通事故が発生した大半の原因が加害者にある場合は、事故のきっかけを作った責任があるとみなされ減額の対象となるのです。

そのため、過失が70〜90%なった加害者の自賠責保険の補償額は120万円から96万円(120万円×0.8)へ減額となり、これを「重過失減額」と呼びます。

また、被害者が死亡したり後遺障害として認定されるようなケガを負っていたりするときは、自賠責保険の限度額120万円の減額割合が変わってきます。過失が80%以上90%未満の場合は30%減額され84万円、過失が90%以上100%未満の場合は50%減額され60万円になります。

加害者が自賠責保険から受けられる補償は「過失が70%以上あるか」「相手が死亡もしくは後遺障害として認定されたか」によって大きく変わってくるので注意が必要です。

過失が70%未満であれば、自賠責保険の限度額は120万円のままとなります。自賠責保険は「相手のケガを補償する保険」であるため、過失割合が100%の加害者の場合、自賠責保険を使って補償を受けることはできません。

過失割合を修正する要素について

交通事故の発生状況はさまざまなパターンがあります。自動車同士や自転車とバイクとの交通事故など、事故の発生状況によっておおまかな過失割合が決まっています。

これは「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」または「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準(いわゆる「赤い本」)」に過失割合を割り出す方法が記載されています。これらは過去の裁判例などから損害額を算定しており、その内容に沿って過失割合の詳細を決めるのが通常の流れです。

これらはあくまでも算定基準の参考として扱われるため、事故の細かい状況に応じて、過失割合というのは10〜20%や5%単位で細かく修正されるのが一般的です。

例えば、どちらかに違反があった場合は、10〜20%程度過失が増えます。具体的には「速度違反」「ウインカーを出さずに急な進路変更」「交差点の手前30m以内での追い越し」などです。

また、児童・幼児・高齢者・身体障害者が交通事故に遭った場合、「判断能力や行動能力が劣っている者は保護される」とされているため、これに該当する人は過失割合が通常より5〜20%低くなります。

ここでいう「児童」とは6歳以上13歳未満のことをいい、「幼児」は6歳未満のこどものことをいいます。「高齢者」については65歳以上の人を指します。

「身体障害者」とは、原則として障害者手帳をもつ、視覚障害・聴覚障害・肢体不自由などがある人のことを指します。

以上のようなポイントを考慮して修正を加えながら過失割合を決めていきます。

駐車場で起きた交通事故の過失割合は過去の裁判例を基準にする

駐車場などの私有地では、道路交通法は適用されないのが原則です。しかし、駐車場で発生した交通事故の場合は例外的に道路交通法が適用されます。

例えば駐車場内では、駐車のために様々な方向からバックしたり方向転換したりする場面があります。明確な車線がないことがほとんどなので、道路上ではあまり起きない事故が発生することがあります。

例えば「停車していた他の車が駐車場から一般道路へ向け発進したため、その空きスペースに停車しようとしたところ、その車が急にバックしてきて自分の車にぶつかってきた」「駐車スペースへ止めようとバックしていたら、駐車スペースを探していた他車と激突した」というような一般の道路では起きないような特殊な事故が起こります。

そのため「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」には上記のような駐車場で起こった事故の事例はあまり載っていません。このようなことから、駐車場での交通事故は過失割合でトラブルになることが非常に多いです。

一般道で発生した交通事故と同様に、駐車場などの私有地で起きた事故も双方の言い分をもとに過失割合を決めていきます。しかし、お互いの主張に大きな食い違いがあれば、事故状況が類似した過去の裁判例をもとに過失割合を出していきます。

同じ判例があれば問題はないのですが、類似した判例が基準として使われると「似ているかもしれないけど、今回の事故と一緒にされては困る」「過去の判例とは状況が違うわけだから、同じような結果にされるのはおかしい」というように、被害者は納得のいかない結果になることが多いのが実態です。

もし納得のいかない過失割合を提示され、なおかつドライブレコーダー等の証拠がない場合は、証拠を集めるため駐車場の管理者に防犯カメラにデータがあるかチェックしてもらいましょう。

過失割合を覆すには動画や目撃者の証言が必要

ブレーキ痕や車両のへこんでいる場所、キズの深さなどの被害状況である程度、事故状況を特定することができます。しかし、過失割合を決めるとき、加害者がウソの証言をすることがよくあります。これがトラブルになるもとになります。

例えば、赤信号を無視したにもかかわらず「青信号だったから直進した」といった加害者のウソの言い分です。

その他、「当て逃げ」「ウインカーを出さずに進路変更」「停止線を無視」「速度違反」などは、ドライブレコーダーなどの動画や目撃者の証言がなければ立証するのは難しいです。たとえ被害者が事故状況を正確に証言したとしても、「証拠」がなければ主張が全て通ることはありません。

動画などで事故状況を最後まで立証できなければ、裁判をしたとしても納得のいく結果を得られる可能性は低いです。

状況的に被害者であっても過失割合が50:50になったり、場合によっては加害者になったりするケースもあります。交通事故の状況を客観的に立証できなければ被害者が理不尽な状況に追い込まれるのが実情です。

過失割合がなかなか決まらない場合

交通事故で起きた過失割合のトラブルは決着がつくまで、非常に長い時間がかかることが多いです。追突事故などの言い逃れできない一方的な交通事故ですと、過失割合はすぐに決まります。しかし、前述したような双方の言い分に食い違いが出てくる場合は、早期の決着は難しくなります。

明らかに相手に過失があるのが明白であっても、加害者が過失を認めない場合は、事故状況を示す証拠がないと被害者が納得いかない結果に陥りやすいです。

過失割合でトラブルが起こったとき、保険会社は「アジャスター」という過失割合の調査業務をする人に依頼をすることがあります。

調査の内容は「加害者と被害者の双方から聞き取り」「事故現場に出向いて写真撮影」「損傷した車体をチェックして事故状況を推察」などを行います。これらの内容をもとに、事故の当事者の証言が正しいものであるかどうかを判断していきます。

これによって「衝撃時のスピード」「ブレーキ痕からブレーキを踏み始めた場所」「激突した角度などの状況」など、ある程度の状況を割り出すことが可能です。しかし、動画などの決定的な証拠がなければ、過失割合が決まらないまま時間だけが無駄に経過してしまうことがあります。

中には6ヶ月以上も過失割合が決まらないといったケースも珍しくありません。これは加害者がかたくなに証言を変えなかったり、警察からの現場検証の立ち会い要請も無視し続ける人がいたりするためです。このような状況になってしまうと過失割合の交渉すらできない状況になります。

全く相手が証言を変えなかったり現場検証も拒否したりするような加害者の場合、被害者が納得のいく結果を得るために裁判を起こさなければならないケースが出てくることもあります。

お互いが動いている交通事故でも過失割合が発生しないケースについて

交通事故では双方がともに走行中であったときは、「どちらにも過失が発生する」と認識することが多いです。しかしお互いが走行中にもかかわらず、過失割合が0:100というように、加害者に一方的な過失が認められると判断される交通事故があります。

それは例えば「車が直進しているときに突然、対向車線から車が激突してきた」「青信号で直進していたところ、左から赤信号を無視した車と激突した」というケースです。

これは被害者が、①「道路交通法の違反をしていないこと」②「交通事故を予想することができない状況」③「事故を回避できない状況」という3つの条件をすべて満たしていれば、走行中に受けた交通事故の被害でも過失ゼロになる可能性があります。

また、加害者が停車中で、被害者が走行中という状況で過失割合が0:100という事例もあります。

これは渋滞しているなか、バイクが車の脇をすり抜けている最中にいきなり車のドアが開いて激突したものです。車が道路で停車中にドアを空ける際は後方を確認してから開けなくてはいけないという道路交通法の規定があるからです。

このケースでは上記の①〜③に該当するため、バイクに乗っていた被害者の過失はゼロになります。

ここで注意してほしいのは、本来であれば被害者の過失が0になる案件でも、保険会社は被害者に対して10〜20%の過失を発生させようとすることがあります。

被害者側に過失割合が10〜20%でも発生すれば、保険会社が負担すべき車の修理費やケガが長引いたときの治療費の補償額を過失の分だけ減らすことができるからです。

例えば、被害者の車の修理費が50万円だったとき、被害者にも過失が20%あることにすれば被害を被っているにもかかわらず、被害者は10万円の負担をしなくてはなりません。「小額の過失だからいいや」と保険会社のいいなりになってしまうと、最終的に不満の残る補償になってしまう可能性が出てきてしまいます。

基本的に保険担当者は被害者への補償額が大きくなるほど成績が下がる仕組みとなっています。そのため保険担当者は「いかに自社負担額を減らすか」が自分の実績につながるので、できるだけ「被害者の過失を増やすほうが、都合がいい」ということになります。

そのため「お互いが動いている交通事故はどちらも過失が発生します」という言葉を全て信じてはいけません。共に走行している交通事故だとしても、0:100になる可能性があるので、保険会社に提示された過失割合に不服があるときは安易に応じてはいけません。

接触していない交通事故の過失割合について

接触を回避できたとしても交通事故が発生してしまうことがあります。

例えば、2車線の道路をバイクで走行中に、反対の車線を走っていた車が脇見運転などで急に自分に向かって車線変更をしてきたケースです。このとき、バイクが激突を避けるため転倒したものを「非接触事故」といいます。

相手の車にはキズがないので、過失割合でトラブルになりやすい事例です。加害者が「急な車線変更をしたから」や「ウインカーを出さずに車線変更をした」と正直に証言してくれるといいのですが、「車の動きにバイクが過剰に反応した」「バイクが勝手に倒れた」というウソの主張をされると解決しにくくなります。

目撃者がいればいいのですが、目撃者や動画の証拠がない場合は事故状況を立証できないため、被害者:加害者=0:100という過失割合になることは少ないです。

完全な被害者であるバイク側は、10:90や20:80のように10〜20%前後の過失が発生してしまうことが多々生じているのが現状です。

同乗者は過失が発生しない

交通事故の際、助手席や後部座席に乗車していた人(同乗者)は過失が一切発生しません。たとえ過失100%の加害者の車に搭乗していたとしても、運転手以外の人は「一方的な被害者」という扱いになります。例外はないので、「同乗者はどんな状況でも過失はない」と考えていいです。

自爆事故(運転手自身の過失である自損事故)の車に同乗していたとき、運転手は自分の加入している任意保険からしか治療費は補償されません。ただし、単独事故のように相手がいない事故であっても、同乗者の治療費はしっかり補償されます。

この場合、自損事故を起こした運転手の自賠責保険を使うことができます。これは、同乗者が「運転手から被害を受けた」という形になるためです。同乗者は事故状況に関係なく、しっかり補償を受けることができるので、ケガをした場合は必ず運転手の自動車保険を確認するようにしましょう。

過失割合の交渉は弁護士に任せることがベスト

過失割合の交渉は高度な専門知識が必要です。被害者自身で交渉することも可能ですが、弁護士に任せることが望ましいです。保険会社同士にまかせてしまうと、被害者にとって納得のいかない過失割合になってしまう危険性があるからです。

これまで話してきたように、過失割合を正確に割り出すことは非常に大きな労力を必要とします。そのため、保険会社としては妥当なラインであれば多少数字が増減しても、ある程度のところで妥協して過失割合を決めてしまうことが多いので注意が必要です。

被害者の意に反して保険会社が勝手に譲歩して過失割合の交渉を進めないように、「弁護士に依頼しておくこと」が大変重要です。

専門家である弁護士に頼むことで不当な過失割合になる危険性が減るからです。もし過失割合に関して素人である被害者自身が弁護士に頼まずに保険会社と交渉したとしても、前述した過失割合の修正要素を上手く主張できないことが多くあります。

優秀な弁護士であっても動画などの証拠がなければ交渉が難航することがよくあります。しかし、交通事故の知識に乏しい被害者よりも、過失割合の知識にたけた弁護士に交渉してもらう方が納得のいく過失割合に近づける可能性はぐっと高くなります。

過失割合の交渉は、数ヶ月間のあいだ決まらず長期化することもよくあるのであきらめずに根気よく待ちましょう。どうしても納得のいく過失割合に覆すことが難しい状況になったとしても、弁護士が総合的な視点で被害者にとって補償額を損しない方向で対応してくれます。

弁護士費用について

弁護士費用は一般的に高額です。しかし、交通事故では任意保険のプランに加入していると弁護士費用が必要でないことがあります。その任意保険のプランとは「弁護士費用特約」です。もし、弁護士費用特約に加入していれば保険会社が300万円まで弁護士費用を負担してくれます。

被害者本人が加入していなくても、家族が弁護士費用特約に加入していれば使えることが多い優れた特約です。(※保険会社によって適用範囲が違います)

また、弁護士費用特約を使ったからといって等級が変わることもないので、安心して使用することができます。被害者にとってメリットが大きい特約なので、加入していたらすぐに使うべきです。

正式に弁護士へ依頼が完了したら、弁護士が被害者の代理人になるので、被害者は直接保険会社とやり取りをする必要がなくなります。これにより複雑な交通事故の制度で悩むことが減るので、治療に専念しやすい環境を作ることができます。

仮に、弁護士費用特約に加入していなくても問題ありません。交通事故の被害者に良心的な弁護士事務所であれば「着手金なし」「完全成功報酬」で対応してくれるところがあります。そのため、被害者にリスクは全くないので安心して依頼をすることができます。

無料相談をしてくれる弁護士も多いので、まず相談をしてみるのもいいです。物損や治療費などの補償額が大きくなるほど過失割合は重要になってきます。過失割合で後悔しないためにも、補償問題で不安な点があるときはすぐに弁護士に相談するのが賢明といえます。