交通事故ではケガをする以外にも、車体やカバン等の持ち物も損傷することは多いです。事故状況によって損害の内容は大きく変わりますが、被害者自身に知識がなければ適切な修理費用が補償されないリスクが高くなります。

多くの被害者は保険会社の言いなりになってしまい、損害が大きくなっています。ここでは、物損の適切な補償額を手に入れるための知識を確認していきます。

交通事故で壊れた物の修理費が補償される範囲

基本的に交通事故で壊れた物というのは全て補償の対象になります。車やバイクの車体の修理費用はもちろんですが、事故の衝撃で損傷した「携帯電話」「洋服」なども補償の対象になります。

物損補償は予想よりも低い金額で提示されることがよくあるので注意が必要です。納得のいかない提示額の場合、感情に任せて保険会社と交渉しても結果が変わることはなかなかありません。

交通事故は補償すべき「根拠」がなければ保険会社は支払う義務がないからです。そのため、被害者は納得のいく補償をしてもらうために保険の仕組みを理解しておく必要があります。

物損の補償で使う保険について

交通事故で自分が所有していた物の修理費や買い替え費用を補償してもらうとき、事故当事者のどちらかが任意保険に加入している必要があります。それは、自動車購入時に強制的に加入する自賠責保険は物損の補償がないからです。

通常の流れとしましては交通事故被害者は、加害者の加入している「対物賠償保険」から修理代等が補償されます。もし、加害者が任意保険に加入していなかった場合、被害者の加入している「車両保険」を使って補償を受けます。

対物賠償保険と車両保険はどちらも使ったときは等級が下がり、翌年の保険料は高くなることを認識しておきましょう。

仮に、加害者と被害者ともに任意保険に加入していなければ車体等の修理費だけでなく、下記にある補償はされず全て自己負担になる可能性が高いので注意が必要です。

代車(レンタカー)の貸し出し期間

交通事故で車やバイクを損傷したとき、見積もりを取って修理が完了するまである程度の期間を要します。このとき車やバイクがない生活を送ることは不便になるので、一定期間のあいだは代車(レンタカー)費用を保険会社に出してもらえます。

基本的には約1ヶ月ほど保険会社は代車費用を補償してくれます。しかし、「当社では代車代は2週間までしか出せません」「過失のある方はレンタカーを出せません」というような対応をしてくることがあるので注意しましょう。

このようなことを保険担当者に言われた場合、不当な補償内容である可能性が高いので必ず弁護士に相談するべきです。

物損補償の金額を決める流れ

交通事故の物損は補償額を決める基準があります。保険会社から提示された修理費が予想以上に低かったとき、どのような流れで補償額が決まるのかを理解しておけば「妥当な提示額なのか、不当な提示額なのか」ということがわかります。

保険会社の言いなりにならないために、以下で物損の補償額が決定する流れを確認していきましょう。

物損補償は「時価額」が基準になる

交通事故が原因で壊れた車体や持ち物の補償額を決めるときは「時価額」が基準になります。時価額とは、購入時の価格から使用期間や経過年数に応じて消耗分を差し引いた金額となります。そのため購入時は高額であっても、購入から期間が経過するほど価値が下がってしまい、補償される金額が低くなってしまうのが物損補償です。

車やバイクは事故時の車種・年式・走行距離や使用状態などを基準に、オートガイド社が発行している「自動車価格月報(レッドブック)」という本や、その当時の市場価格から算出します。レッドブックに記載されている車の小売価格は裁判をするときの基準として使われるため、その金額を大きく超える請求は難しいと考えていいです。

車を購入してから10年以上経過していた場合は、販売価格の10%として評価されたりなど、基本的に時価額の補償では被害者にとって納得のいかない金額になることが多いです。

そのときは安易に保険会社の提示に応じず、交通事故に強い弁護士に「本当に保険会社の提示額が妥当か」ということを相談しましょう。

持ち物の時価額を補償してもらう流れ

交通事故でカバンなどの持ち物が損傷した場合、金額や購入した時期をレシートや領収書などで証明することが必要です。ただ、日常で使う物のレシートなどをいつまでも保管している人は少ないと思います。

保険会社に「◯◯万円で購入した」と自己申告しても補償されることはありません。被害者が本当のことを言っても、交通事故の補償は根拠を提示できなければ請求を認めてもらえないです。

このときはインターネットの販売サイトで同じ商品、もしくは型が近い商品を探しましょう。レシート等の情報が残っていなければ、販売サイトの価格を基準にして時価額を決めていくことが一般的です。

前述した通り、時価額は購入から年数が経過するほど価値が下がるため、購入時の金額よりも低い補償額になるこを認識しておきましょう。

車の価値よりも修理費が高くなった場合に確認すべき保険プラン

車体の損傷が激しかったことで時価額よりも修理費が高額になったとき、車体の価値以上の金額は補償されません。ただ、このときは任意保険のプランを確認して物損補償に関する特約に加入しているかを確認しましょう。

対物超過修理費用特約:交通事故の加害者が「対物超過修理費用特約」というプランに加入していたら、時価額を超えた部分の修理費も補償されます。例えば「車の価値が50万円で、修理費が70万円必要」という場合、被害者は50万円の補償額となります。

これでは修理をするのに実質20万円が自己負担となってしまいます。このとき加害者が対物超過修理費用特約に加入していれば、時価額を超えた分も含め修理費70万円全額を補償してもらえることになります。

保険会社によって内容は異なりますが、対物超過修理費用特約は「時価額を超えた場合は50万円を上限に補償」とするものが多いです。

また適用条件も保険会社によって違いがあり、6ヶ月以内もしくは1年以内に「実際に修理をすること」というように、少し期間にバラつきがあるので、対物超過修理費用特約によって補償を受けるときは必ず確認しておきましょう。

車両超過修理費用特約:次に被害者が加入していると使える特約を確認していきます。前述した対物超過修理費用特約に加入していない加害者だった場合、時価額より高い修理費になればそれだけ被害者の損害が大きくなります。

このとき、被害者側の任意保険プランに「車両超過修理費用特約」というものに加入していれば、修理費が時価額を超えても補償されます。

保険会社によって異なりますが、車両超過修理費用特約は「時価額を超えた場合は30〜50万円を上限に補償」とするものが多いです。例えば、「車の価値が50万円で、修理費が80万円必要」という場合でも、被害者が車両超過修理特約に加入していれば全額修理費を補償してもらえます。

車両超過修理特約を使った場合は、6ヶ月以内もしくは1年以内に「実際に修理をすること」という条件があるので、できるだけ早めに修理に移った方がいいです。

また、車両超過修理特約を使うと等級が下がるので、「差額の修理費を自己負担した方がいいのか」「等級が下がってでも使った方がいいのか」ということを慎重に判断しましょう。

過失割合に応じて修理費用を負担する

交通事故によって車体や持ち物が損傷した場合、時価額を基準にして修理費が補償されます。過失割合に応じて最終的な補償額が決定します。過失割合が0の被害者であれば物損で負担する金額も0になります。ただし、被害者であっても過失が発生している場合は注意が必要です。

交通事故の当事者同士の車体が損傷していた場合、お互いの過失割合に応じて修理費を負担することになります。例えば、「被害者の車の修理に50万円必要」という状況のとき、被害者に過失が10%あれば単純計算で5万円を自己負担することになります。

修理費が高額になれば、自分の加入している車両保険を使って補償を受けることも可能です。しかし、車両保険を使うことで等級が下がり、翌年の保険料が高くなります。車の修理に保険を使うのか、自己負担にするのかを過失割合や修理費用に応じて慎重に判断するといいです。

被害者自身に過失があり、相手も車の修理をしているときは過失割合に応じて補償額が相殺されます。物損補償は非常に複雑なので、被害者だけでトラブルを抱えると泣き寝入りする可能性が高くなるので、できるだけ早く交通事故に強い弁護士に相談するようにしましょう。

車の価値が下がったものを補償する評価損(格落ち損)

交通事故で車体が損傷することで「事故車扱い」となってしまい、車やバイク自体の価値が大幅に下がります。そこで車体の価値が下がったものを補償するものを「評価損(格落ち損)」といいます。

基本的に交通事故被害に遭った車体のほとんどは価値が下がります。しかし、保険会社側は評価損を認めることについて頑に拒むことが多く、修理代だけでなく評価損も補償してもらうケースは非常に少ないです。

ただし、「車体の価値がどれくらい下がったのか」という根拠を明確に証明することができれば、評価損を認定されることもありますので、まずは実際の損害を調べていくことが重要になります。

「交通事故によってどれだけ車体の価値が下がってしまったのか」、という具体的な金額を調べてもらうには「日本自動車査定協会」が発行する「事故減額証明書」を根拠に証明していきましょう。これは査定士によって、明確に車体の損害額を算定してもらい、協会の名前で証明書を発行してくれるというものです。

しかし、評価損が認定されたとしても、判例では修理費の20〜30%の補償になることがほとんどになります。「新車で走行距離が数百キロ程度」という場合は、評価損が50%認定された例もありあますが、交渉が難航するケースが圧倒的に多いです。

また、「車体を売る予定がなかった場合は評価損を認定することができません」と保険会社に主張されることもありますが、「転売予定がなくても現実に価値が下がっているから損害が発生していると考えるべき」という判例もあります。

そのため、車の売る予定がなくても評価損を認定してもらえるケースがありますので、簡単にあきらめてはいけません。事故によって車体の価値が下がってしまったときは損害額を証明するまでの流れなど、交通事故に強い弁護士に相談することが望ましいです。

車体の損傷が激しく全損扱いになった場合

交通事故によって損傷した車体が全損扱いになるときは、「修復が不可能な状態」「修理費が車体の価値より高額になった場合」になります。

全損扱いは、車体が大破した状態であればイメージしやすいと思いますが、修理費が車体の価値を上回ったときにも全損扱いになるのは理由があります。

それは「保険会社の賠償義務は車体の時価額を限度とする」というようになっているからです。例えば、「車の価値が50万円で、修理費が70万円必要」というケースです。このとき保険会社は車体の価値を基準にして50万円の賠償をすればいいことになります。

「思い入れの強い車だから修理して乗りたい」と言っても、保険会社はあえて補償を高額にする必要がないので、たとえ車を修理したとしても車体の時価額が補償の限度となります。

この考えは過去の裁判で確立しているため、車体の価値以上の補償額をもらえることはありません。そのため、「車を買い替えた費用が全額補償される」「修理費を全額補償してもらえる」ということはないと考えていいです。非常に理不尽な内容のため、ほとんどの被害者は物損補償で損をしてしまいます。

少しでも損失額を小さくするために任意保険の特約など、補償される範囲を確認しておきましょう。

買い替え諸費用も補償してもらうことが重要

事故で車体が全損扱いになったとき、補償額は同じ車種の年式や走行距離などが近い状態の車体の表示価格が基準になります。ただ、実際のところ車やバイクを購入するときはさまざまな諸費用がかかります。以下の諸費用は補償の対象になります。

・検査登録手続代行費用

・検査登録費用

・車庫証明法定費用

・自動車取得税

・車両整備費用

・廃車費用

・納車費用

・車庫証明手続代行費用

交通事故によって車体が全損扱いになり、新たに購入するときは車体車体価格のみではなく、上記の買い替え諸費用も合わせて補償してもらうことが重要です。

弁護士に相談する時期について

交通事故による物損補償は被害者の主張がスムーズに通ることは少ないです。ほとんどのケースで被害者の納得のいく金額よりも低い金額で提示されます。

このときはできるだけ早く弁護士に相談した方がトラブルを最小限に抑えられます。交通事故に詳しくない被害者が、保険会社に適正な時価額の根拠を提示することは難しいです。

交通事故に優れた弁護士に依頼することで、理不尽な補償額になるリスクを回避することができます。

弁護士費用について

日常的に弁護士と接点がある人は少ないです。そのため、弁護士費用が高額になるという認識を持っていることがほとんどです。しかし、一概にそうとは言えません。交通事故被害に遭ったときは、まず自分が加入している任意保険の内容を確認してみましょう。

任意保険のプランに「弁護士費用特約」というものに加入していれば、保険会社が弁護士費用を300万円まで補償してくれます。適用される範囲も広く、被害者本人が弁護士費用特約に加入していなくても、家族が加入していれば補償される可能性があります。

このように、自分が弁護士費用特約に加入していなくても家族が加入している弁護士費用特約を使えることがあります。そのため、交通事故被害に遭ってしまったときは真っ先に確認しておくべき保険内容です。

弁護士費用特約は、使っても等級が変わらないので、翌年の保険料が高くなることはありません。使うリスクが全くない優れた特約のため、加入していれば迷わず使うべき特約といえます。

もし、弁護士費用特約に加入していなくても大丈夫です。「着手金なし」「完全成功報酬」で対応してくれる弁護士事務所に依頼をすれば、被害者のリスクをなくすことができます。

初回は無料で相談してくれる弁護士事務所も多いので、「車の修理費の提示額が妥当か疑問」「代車を拒否された」というような物損トラブルに巻き込まれた場合はすぐに相談してみましょう。