交通事故でケガをした際、通院するために仕事を休んだときは休業補償の対象になります。入院をしていた期間に関しては原則的に休業したものと判断されます。

休業補償は丸一日仕事を休んだときはもちろんですが、半日仕事を休んだ場合でも補償されます。例えば「午前中は病院に行き、午後から出勤する」という場合です。

しかし、仕事を休めば全てのケースが休業補償の対象となるわけではありません。ケガの状況や雇用の形態などによって補償の範囲は異なるため、被害者自身が休業補償に対する知識を持っておくことが重要です。

ここでは、交通事故による休業補償について解説していきます。

休業補償を申請する前に知っておくべきこと

保険会社に休業補償をしてもらうには、書面によって休業日数や給与を証明する必要があります。休業補償を申請する前に下記を確認していきましょう。

休業補償の支給基準は3つある

休業補償の計算方法は「1日あたりの収入額×休業日数」となります。このとき、「自賠責保険基準」「任意保険基準」「弁護士基準(裁判基準)」という、3つの計算方法があります。

自賠責保険では、「原則として1日あたり5,700円」とされており、これ以上の収入があると証明できる場合は「1日あたり19,000円」を限度に補償されます。

任意保険基準では、各保険会社によって独自の算定方法になります。実際のところは自賠責保険とほぼ同じか、わずかに任意保険基準の方が高い金額に設定していることが多いです。

弁護士基準(裁判基準)では、直近3ヶ月分の給与を90で割った金額が補償されます。特に上限がないため、弁護士基準では被害者にとって「本来の給与に見合った金額」が補償されます。

休業補償は非課税とされている

基本的に休業補償は非課税とされているため、受け取った金額は所得税の対象にはなりません。理由として、所得税は労働によって得た金額に対してかかる税金だからです。

これは慰謝料や後遺障害として認定されたときの逸失利益も同じで、損害賠償で得た金銭は補償という観点から法律で税金の対象から外れています。

休業補償が認定される期間

交通事故によるケガが原因で休業が必要になったとき、ずっと補償がつづくのではなく一定期間をもって終了となります。休業補償の期間は厳密に設定されているわけではありませんが、症状が残っていても仕事に復帰することが可能な状態が休業補償終了の目安です。

むち打ちや腰のケガであれば、1週間〜1ヶ月程度の期間を休業することが一般的です。「職場に迷惑をかけたくない」という理由で、交通事故の翌日から出勤する人も珍しくありません。

むち打ちや腰の負傷が重度の場合は3ヶ月以上の休業補償が認定されることもあります。ただし、医師がレントゲン写真やMRI画像などを根拠に休業の指導をした場合など、特殊な事例に限られます。

長期の入院を要する場合ではないときは1ヶ月、2ヶ月と期間が長くなるにつれて休業補償が認定される可能性は低くなってきます。

ここで勘違いしやすのは、「仕事に復帰したら治療費や慰謝料の補償が打ち切りになるのでは」と考える人がいますが、これは間違いです。仕事に復帰しても休業補償が終了になるだけで、治療費や慰謝料の補償は継続されます。そのため、仕事をしながら自動車保険で通院をすることが可能です。

後遺障害が残ったときの休業補償について

前述した通り、休業補償は一定期間で終了になります。このとき、後遺障害が残り完治することができないケガを負った場合の補償が問題になります。

交通事故では、ケガが治らないと診断されることを「症状固定」といいます。むち打ちなどの骨に異常がないケガは、6ヶ月以上の治療期間を経過しても改善しなかったものが症状固定の目安となります。

また、骨が変形したり手足を切断した場合などは期間に関係なく、医師が「今後は回復の見込みがない」と診断した時点で症状固定とされます。

基本的に症状固定と診断されるまでのあいだは休業補償の対象です。症状固定と診断されたあとは残った症状に対して、後遺障害申請をします。1〜14級まである後遺障害の等級を獲得することができれば、そこで休業補償に代わる補償がなされます。

このときは休業補償という形ではなく、「逸失利益」という「ケガがなければ将来得られた収入」を割り出して補償されます。後遺障害の等級が重度であればあるほど、逸失利益の金額が高くなると判断されます。

職業別にみた休業補償

休業補償は経営者やサラリーマンなど、雇用形態によって提出する書類や休業補償が支払われる基準が異なります。

以下でひとつずつ詳しく解説していきます。

会社員・パートの休業補償

会社員(サラリーマン)やパートで働く人がケガで仕事を休んだとき、休業した日にちに応じて給与が補償されます。

一日の給与を割り出す方法は、「事故前3ヶ月の平均給与」を基準に計算します。収入を割り出すときは1ヶ月を30日と考えるので、平均給与に対して90日で割る方法を取ります。

例えば、毎月の給与が安定して30万円であった場合、「90万円÷90日=日給1万円」です。休業補償の計算では休日も給与に含まれると考えられているので、勤務日数ではなく90日で計算されます。

また、業務の成績によって給与が変動する職業の場合は「事故前1年間の平均給与」を基準にすることもあります。このときは「源泉徴収票」をもとに毎月の平均給与を割り出します。

アルバイト代の補償について

交通事故では学生の被害者も多くいます。会社員であったりパートなどは問題なく休業補償の対象となりますが、アルバイト代はスムーズに補償されないことがあります。

保険会社側は「継続的に収入を得ていたもの」に対して補償をします。しかし、学生のアルバイトは不規則な勤務形態の人が多く、収入に大きなバラつきがあることが多いです。

そのため、保険会社から「交通事故がなくてもアルバイトの日数が少なかったのではないか」と捉えられやすい傾向にあります。

ただし、長期に渡って安定した収入を得ている実績があれば休業補償の対象となりやすいです。例えば、直近の半年間は継続して5万円前後の収入を得ていたなどです。

また、交通事故の前に決まっていたシフトがあれば、勤務予定だった分のアルバイト代を請求するようにしましょう。勤務予定があったことを証明できれば、そこまでの期間に対してはアルバイト代の請求は可能です。

交通事故のケガにより長期でアルバイトを休むことになったときは、「毎週◯曜日の◯時〜◯時まで働いていた」という実績をもとに休業補償をしてもらいましょう。

個人事業主の休業補償

交通事故による被害者が個人事業主だった場合、「仕事を休んだことで収入が減った額」を証明することで休業補償の対象になります。

このとき、「確定申告書」「源泉徴収票」「納税証明書」「課税証明書」などから1日あたりの収入を割り出します。上記の書類から前年度の収入から1日あたりの給与を算出し、「1日あたりの給与×休業日数」という計算で休業補償を割り出します。

注意すべきポイントとして、サラリーマンなどに比べて個人事業主は「労働の実態」を証明しにくいところがあります。例えば「本当は労働していたけど休業補償を請求する」ということが容易にできてしまうからです。

そのため、個人事業主は明確に休業の実態を立証しなくてはならないため、会社員の人よりも請求の手間が掛かります。保険会社の審査も厳しくなりがちなので、請求した休業補償が税務申告等の金額と違いがある場合は、支払を拒否される可能性が出てきます。

また、固定費や人件費も休業補償の対象になる可能性があります。例えば、店舗を構えているときであれば休業中の家賃です。自分の代わりに臨時で他のスタッフに労働してもらったり、短期で従業員を雇ったりした場合は従業員の給与も補償される可能性があります。

事業の継続に必要なことを証明しなくてはならないので、無条件に固定費や人件費が補償されるわけではないので注意しましょう。

会社役員の休業補償

交通事故被害者が会社役員であった場合、基本的に休業補償の対象にはなりません。理由として、役員報酬は労働による報酬ではなく「役員としての地位に対して当然に支払われる報酬」とされているからです。そのため、ケガによって休業しても役員報酬に影響が出ないのが一般的です。

ただし、役員報酬でも休業補償が認められるケースもあります。それは、役員報酬のなかで実質的に「労働に対する報酬」が含まれている場合です。

「労働に対する報酬」と「役員としての地位に対する報酬」の比率を立証できた場合は、休業補償が支払われる可能性があります。「他の従業員と同じような業務で役員報酬をもらっている」「被害者が現場いなければ業務が成り立たない」といような場合では、労働によって報酬を得ていると判断されやすいです。

副業の休業補償について

交通事故による休業補償は副業に対しても補償対象になります。ただし、全てのケースで補償されるわけではありません。副業に対する休業補償は、本業よりも厳しく審査されるので補償されにくい傾向にあります。

副業の休業補償を請求する際、「源泉徴収票」「賃金台帳」「雇用契約書」などの書類で明確に収入を証明する必要があります。もし、これらの書類が揃わない場合は休業補償を受けることは難しいです。

副業の休業補償は本業に比べて、より明確に書面で損害を証明する必要があります。

交通事故の前に就職先から内定をもらっていた場合

就職が決まっていたにもかかわらず、交通事故のケガが原因で就職ができない場合も休業補償の対象になります。例えば、「3月に起きた交通事故で入院してしまい、4月から勤務できなくなった」というものです。

このような場合、「就職先に内定していた」という証明ができれば休業補償を受けられる可能性が高いです。そのときは、会社から支払われる予定だった給与を基準に休業補償を計算します。

家事労働に対して補償される主婦の休業補償

交通事故では専業主婦も休業補償の対象になり、家事従事者に対する補償を「主婦休損」と呼びます。

事故によって家事労働に支障が出てしまった場合、全てのケースが補償されるわけではありません。「家事労働ができないほどのケガ」であることを証明した場合に主婦休損が補償されるのであって、「痛いけど我慢すれば家事労働ができる」という状態では補償されにくい傾向にあります。

原則は「専業主婦」が補償の対象ですが、パートをしている人であっても主婦の休業補償を請求することが可能です。

このとき、請求するのは主婦休損とパート代のどちらか一方となり、いわゆる「二重取り」はできません。主婦休損の金額とパート代の双方を計算し、高い方の金額を請求するようにしましょう。

また、一人暮らしの場合は原則的に主婦休損は認められません。

主婦休損の補償額について

主婦の休業補償は「1日5,700円」という金額になっています。これは交通事故で通院した期間全てで計算されるのではなく、「交通事故の補償期間のうち何日間のあいだ家事労働に支障をきたしたか」という観点で考えられます。

例えば、「通院期間が90日のうち30日のあいだは家事労働に支障をきたした」と認定されたときは、5,700円の補償が30日分になるので171,000円が休業補償として支払われます。

家事労働にどれだけ支障が出たかはケガの重症度によって判断されます。保険会社が14日程度しか主婦休損を認めないこともあれば、90日間のあいだ家事労働に支障をきたしたと認められることもあります。

主婦休損が認定された日数によって、被害者の補償額は数十万円単位で変わってくるので注意が必要です。そのため、「ケガがひどいな」と思ったときは医師に対して「家事労働ができないくらいの症状だ」ということを明確に伝えておきましょう。

主婦休損は弁護士に依頼することで単価が高くなる

前述した通り、主婦休損は日額5,700円の補償となります。この金額は自賠責保険の基準で「最低限度の補償額」とされています。

このとき、弁護士が被害者の代わりに保険会社と交渉するだけで補償額が高くなります。交通事故では「弁護士基準」といって、弁護士があいだに入ることで「妥当な金額まで補償額を増額してもいい」とされています。

弁護士が被害者の代わりに保険会社と交渉することで、主婦休損は日額5,700円から9,700円まで増額することができます。これは「日本で働く女性の平均賃金」を基準に出された金額です。

仮に、主婦休損が30日認められた場合、自賠責保険基準では171,000万円ですが弁護士基準は291,000万円となります。このように弁護士が交渉することで大きく賠償額が変わります。これだけ大きな増額が見込めるのであれば、弁護士に相談をした方が賢明といえるでしょう。

ただし、全てのケースで主婦休損が認定されるわけではありません。入院するほどのケガや骨折などのケガでは「全く家事労働ができない」という根拠になりますが、「捻挫」や「打撲」といったケガであれば何かしらの家事労働をしていると判断される可能性が高いです。

そこで重要なのが通院している医療機関の記録になります。たとえ骨に異常がない症状であっても、家事労働に支障をきたすケガであると診断されていれば請求の根拠となります。

このようなことから、医師に対して「どのような動きに制限が出で家事労働に支障をきたすのか」を定期的に伝えるようにすることが重要です。

休業補償の対象となるもの

休業補償は「仕事を休んだもの」だけが補償の対象ではありません。ただ、「休業補償の対象になるもの、対象にならないもの」の違いは非常にわかりにくいです。

以下で、給与以外に補償されるものと対象にならないものを解説していきます。

ボーナス(賞与)が減額されたときの休業補償

交通事故のケガが原因で労務に支障をきたし、ボーナス(賞与)が減額されることもあります。例えば、「ケガで入院をしてしまい、営業成績が落ちてボーナスに影響した」という場合です。この場合は、減額されたボーナスについて休業補償を受けることができます。

ただし、無条件で減額されたボーナスは補償されません。具体的にボーナスがどれだけ減額されたのかを証明する必要があるため、「賞与減額証明書」を勤務している会社に発行してもう必要があります。

昇進に影響が出た場合

交通事故でケガをしてまったせいで昇進が遅れたり、昇進の話自体がなくなってしまった場合は休業補償の対象となります。

「昇進すれば月収が10万円上がっていたはず」という場合には、昇給したときの給与を基準にして休業補償を受けることができます。ただし、勤務先に「昇進する予定があった」「昇進によってどれくらい給与が高くなる予定だったのか」などを、明確に証明してもらう必要があります。

もし、昇進予定を証明できなければ事故発生時の給与を基準にした休業補償となります。

退職した場合の休業補償

交通事故によるケガが原因で退職を余儀なくされることもあります。例えば、「配送業などの運転をする職業の人が、片腕が麻痺してしまった」というケースです。「事故のケガが原因で退職をした」という因果関係を証明できる場合は休業補償の対象になります。

事故のケガが原因で退職した場合、休業補償の対象となる期間は「退職から症状固定と診断を受けるまでの期間」とされています。「症状固定」とは、「ケガが今後回復する見込みがない」という状態です。

例えば、むち打ちなどの骨に異常がない症状であれば、6ヶ月を過ぎた段階が症状固定の基準になります。退職後180日後に症状固定と診断された場合は「180×1日分の給料」を休業補償として請求できます。

症状固定前に次の職業に就いた場合は、その段階で休業補償は終了となります。

有給休暇を使用して通院した場合

交通事故で負ったケガの治療のために、有給休暇を使った場合も休業補償の対象になります。このときは通常の給与を勤務先からもらいつつ、有給休暇を消化した日の収入を保険会社から支払われます。

要は、有給消化の日は二重の収入を得る形となります。これは交通事故がなければ使わなかったはずの有給休暇を、通院のために消化したことに対する損害賠償です。

ただし、交通事故発生から数ヶ月経過したあとに有給休暇を使って通院した場合は、「本当に通院のために有給休暇を使わざるを得なかったのか」と保険会社に捉えられる可能性があります。

「通院ではなくプライベートな用事で休んだのではないか」と判断されないために、ケガの程度が重たいときに有給休暇を使った通院をするのが賢明といえるでしょう。

失業保険を受給しているときの休業補償

交通事故被害に遭ったとき、失業保険を受給しながら就職活動をしている場合でも休業補償を受けることができます。ただし、ケガの状態によっては休業補償を受けられないことが多いのが現状です。

基本的に「ケガはあるけど就職活動はできる状態」であれば、失業保険をもらいつつ休業補償を受けることは難しいと考えていいです。

「交通事故がなければ就業していた可能性が高い」という場合、失業保険を受給していても休業補償を受け取ることができる可能性があります。例えば、「失業保険の受給期間である6ヶ月を過ぎても、ケガによって就労ができない状態」です。

この場合、失業保険の受給期間が終わっても、ケガの治療中であれば「退職前に所属していた会社の3ヶ月分の給与」「5,700×通院日数×2」などの計算方法で休業補償をされることが多いです。

現場検証で仕事を休んだとき

交通事故では発生直後に警察を呼び、発生状況の記録を取ってもらいます。しかし、被害者が救急車で運ばれたときは、症状が落ち着いたあと数日経過してから現場検証をすることがあります。

このとき、仕事を休んで現場検証をした場合に休業補償の対象になるかが問題となります。基本的には現場検証で仕事を休んだものは休業補償はされません。

理由として、休業補償というのは「ケガの通院で休んだものを補償するもの」だからです。そのため、通院以外で仕事を休んだ場合は休業補償の対象外となります。

このようなことから、交通事故から数日後に現場検証がある場合、できるだけ被害者の都合に合わせてもらう努力をしましょう。

弁護士に依頼するタイミングについて

交通事故が原因で仕事を休んだとしても、全てがスムーズに補償されるわけではありません。例えば、「交通事故から3ヶ月間ケガで休んだのに、保険会社は2ヶ月しか休業補償を認めてこない」といったような場合です。また、保険会社は主婦休損もできるだけ短い期間の補償にしようとしてきます。

このようなときは、できるだけ早く弁護士に相談した方がトラブルを最小限にできます。交通事故の素人が、休業することが必要な根拠を保険会社に提示することは難しいです。

交通事故知識に優れた弁護士に依頼することで、納得のいかない補償額になることを防ぐことができます。

弁護士費用について

一般的に普段から弁護士と接点がある人は少ないです。そのため、弁護士費用が高額なイメージを持っていることがほとんどです。交通事故に遭ったときは、自分が加入している任意保険の内容を確認してみましょう。

任意保険のプランに「弁護士費用特約」というものに加入していれば、保険会社が弁護士費用を300万円まで補償してくれます。適用される範囲も広く、被害者本人が弁護士費用特約に加入していなくても、家族が加入していれば補償される可能性があります。

このように、自分が任意保険に加入していなくても家族が加入している弁護士費用特約が使えることがあります。そのため、交通事故被害に遭ったときは必ず確認しておくべき内容です。

弁護士費用特約は、使っても等級が変わらないので保険料が上がることはありません。使うリスクのない非常に優れた特約のため、加入していれば迷わず使うべき特約といえます。

もし、弁護士費用特約に加入していなくても大丈夫です。「着手金なし」「完全成功報酬」で対応してくれる弁護士事務所に依頼をすれば、被害者のリスクはありません。

初回は無料で相談をしてくれる弁護士事務所も多いので、休業補償のトラブルで悩んでいるときは予想される補償額について相談してみましょう。