交通事故に巻き込まれた場合、人身事故扱いか物損事故扱いのどちらかで処理をすることになります。処理をする基準としては「事故でケガをしたのか」というところで判断されます。
事故でケガを負ったときは人身事故扱いとなり、ケガはなく車体や持ち物だけが損傷した場合は物損事故扱いとなるのが一般的な流れです。基本的に被害者は損害を受けたものについて補償を受けることができますが、事故後の処理を誤ると泣き寝入りするリスクが出てきます。
人身事故と物損事故では被害者の補償内容に大きな影響を及ぼす可能性があるので、慎重に決めていく必要があります。ここでは、人身事故扱いと物損事故扱いによる違いについて解説していきます。
もくじ
原則、ケガをしたら人身事故扱いになる
交通事故によってむち打ちなどのケガを負った場合、人身事故として警察に届け出るのが原則です。人身事故扱いに切り替わることで、物損の修理費用に加えて治費費や慰謝料なども補償されます。
基本的に物損事故扱いのままでは治療費や慰謝料が補償されないので、事故でケガをしたときはできるだけ早く人身事故に切り替えるようにしましょう。
人身事故扱いに切り替える手続き方法
事故でケガをした場合、自動的に人身事故扱いになるわけではありません。被害者自身が、自分で物損事故から人身事故に切り替える手続きを行う必要があります。
まず最初に「事故でどの部位をケガしたのか」ということを、医師に証明してもらうことが必要です。交通事故によって、負傷したことを証明するために「診断書」を取得し、これを警察署に提出します。
警察署で診断書を提出して、その際に実況見分書や供述調書を作成してもらい、人身事故への切り替え手続きが終了します。このとき事故の状況やケガの状態により前もって実況見分を行うことがあり、手続きの順番が前後することがありますが、とくに問題はありません。
以上の流れが人身事故に切り替える手順ですが、事故から日にちが経過していると警察が人身事故扱いにしてくれないことがあるので注意が必要です。
理由としては「事故から日にちが経過しているから、事故とケガの因果関係を認められない」というものです。このようなことから、交通事故でケガを負った場合は2週間以内に人身事故への切り替え手続きを行いましょう。
人身事故扱いに切り替えることができなったとき
事故によるケガは当日でなく、数日経過してから痛みが出てくることはよくあります。「痛みが出た時点で診断書を取得していたけど、2週間を過ぎてから警察へ届け出た」という場合、人身事故に切り替えることはできないのでしょうか。
事故から期間が経過していていた場合、警察署によって対応が変わります。スムーズに人身事故の切り替えに応じる警察もいれば、事故から日にちが経過していることを理由に、人身事故扱いを拒否されることもあります。
このときは、保険会社に対して「人身事故証明書入手不能理由書」というものを提出することができます。これは、保険会社に対して「人身事故扱いにできなかったけど、実際は事故でケガをしていました」ということを届け出る内容です。この書類を保険会社に提出することで、治療費や慰謝料などが補償されるようになります。
人身事故に切り替えなかったときの理由の書き方として「警察が人身事故へ切り替えてくれなかった」「短期間で治療が終わる目安だったから」というものにするといいでしょう。
人身事故証明書入手不能理由書を提出しても、「人身事故に切り替えなかった正当な理由」を証明できなければ、被害者は補償を認めてもらえないことがあるので注意が必要になります。
ちなみに人身事故証明書入手不能理由書は、保険会社から取り寄せることが一般的な流れです。
警察が物損事故扱いを提案してきたとき
被害者が警察署に診断書を提出して人身事故扱いに切り替えようとしたとき、警察から物損事故扱いのままにすることを提案してくることがあります。交通事故でケガをしたときは人身事故扱いにすることが原則にもかかわらず、なぜ警察はこのような対応を取るのでしょうか。
理由としては「事務処理の量を減らしたい」ということが挙げられます。物損事故よりも人身事故の方が、警察の処理する仕事量が格段に増えます。これは被害者の補償を考えた提案ではなく、単純に仕事を減らしたい警察側の事情です。
中には「人身事故扱いにすると裁判することになる」「人身事故だと後で面倒になる」というように、被害者にウソを付いてでも物損事故扱いにしようとする警察官がいるので注意が必要です。
基本的には、人身事故扱いにしたところで被害者に不利益はありません。もし、警察官に物損事故扱いを提案された場合でも、関係なく人身事故扱いに切り替えるようにしましょう。
物損事故扱いで治療をするケース
交通事故後にケガがなく、車体や持ち物だけが損傷したときは物損事故扱いになります。
ただ、ケガをして治療費などの補償を受けるとき、例外的に物損事故扱いのまま進めていくことがあります。前述した通り、交通事故でケガをすれば原則的に人身事故に切り替える必要がありますが、物損事故のままで適切な補償を受けられるのでしょうか。
実際、「物損事故扱いのままで補償内容は人身事故と同じ」という場面は意外に多いです。ケガをしても物損事故扱いのままのケースはあるので、以下で解説していきます。
加害者への罰を望まないとき
人身事故扱いになることで、加害者は罰金や減点が科されます。これは被害者のケガの度合いによって異なり、診断書に記載された「見込み治療期間」が長くなることによって罰則が大きくなる仕組みです。
例えば、過失のない被害者のケガが「15日未満の治療見込み」であったとき加害者は5点の減点となり、場合によっては罰金12万円が科されます。ケガが重症になり、さらに見込み治療期間の長い診断となったときは減点と罰金の度合いが大きくなります。
このとき「自分の補償をしっかりしてもらえれば加害者への罰がなくてもいい」と考える被害者もいます。加害者が被害者に対して丁重に謝罪をして、誠意ある対応を示したときなどは人身事故扱いに切り替えなくて大丈夫でしょうか。
ケガが軽症であるときなどは物損事故扱いで進めてもトラブルがないことが多いので、加害者への罰則にこだわりがない場合は人身事故に切り替えなくて問題ありません。
ただ、物損事故扱いでも治療費や慰謝料が補償されるかどうか、必ず事前に保険会社から確認するようにしましょう。
お互いに過失が発生している場合
交通事故の被害者になった場合でも、一定の過失が付くことはあります。被害者の過失がある程度大きく、加害者側もケガをしていた場合、双方が減点と罰金を科される可能性があるので注意が必要です。人身事故に切り替えることで、お互いが損をすることを避けるために物損事故扱いのまま進めることもあります。
ただ被害者の過失が低ければ、気にせず人身事故扱いにした方がいいので、「ケガの状況」「過失割合」などから総合的に判断して慎重に決めましょう。
もし、物損事故扱いで進めるときは、前述した「人身事故証明書入手不能理由書」を保険会社に提出して人身事故と同じ補償を受けられるか確認することが重要になります。
トラブルを避けるために人身事故扱いにするべき
交通事故でケガをしたときは人身事故に切り替えることが大原則です。前述した通り、物損事故扱いにしても人身事故扱いと同じ補償を受けることは可能ですが、リスクがあることを認識する必要があります。
まず被害者が知っておくべきこととして、保険会社は「物損事故扱い=軽症案件」と捉える傾向にあります。そのため、ケガが長引きそうになったとき、物損事故扱いを理由に治療費や慰謝料を拒否される可能性があります。
そこで「人身事故証明書入手不能理由書を提出すればいい」と考えても、被害者が不利な状況は変わりません。人身事故証明書入手不能理由書は「証明書」ではないので、保険会社が必ず受け入れてくれるとは限らないからです。
このようなことから、物損事故扱いで進めるときは、事前に保険会社に「しっかり人身事故と同じ補償を受けられるのか」ということを確認してからにしましょう。
物損事故では基本的に実況見分書が作成されないため、あとで加害者が事故状況についてウソの証言をした場合、細かい記録がないため過失割合でトラブルになりやすいです。
さらに後遺障害が残ってしまった場合、等級獲得の認定基準を満たしていても物損事故扱いではほとんどが「非該当」とされます。「物損事故」ということだけで、審査をされていない可能性が高いので、ケガがひどいときは必ず人身事故扱いに切り替えるようにしましょう。
まれに加害者から「物損事故扱いにしてください」と頼み込まれることがあります。減点や罰金によって加害者の生活に支障が出てしまうと考えると、情のある被害者は物損事故扱いにしてしまいがちです。これは、のちにトラブルが大きくなり、被害者が泣き寝入りするリスクが高くなるので絶対に避けましょう。
交通事故でケガを負った場合、予期せぬトラブルを回避するために、できるだけ人身事故扱いにすることが望ましいです。