交通事故によるケガで通院をする際、保険会社から「同意書」という書類が送られてきます。

内容としては「診療内容に関する情報を、保険会社に提示することに同意します」というものに、被害者がサインをして返送するというものです。交通事故被害者は「ケガをさせられたから補償は無条件でされるはず」と思っている中で、いきなりこのような書類が届くため、不安を抱く人が多くいます。

なかには「同意書を提出することで不利な状況に陥るのでは」と考えてしまう人もいます。それでは、同意書を出さなくても問題にはならないのでしょうか。

実際のところ、同意書を保険会社に提出したところで被害者は不利になることはありません。ただし、同意書を出すことによって被害者にとってリスクになる場合もあります。そのため、交通事故の被害者は同意書の仕組みを理解した上で保険会社に提出する必要があります。

ここでは、なぜ被害者への補償に同意書が必要なのかを解説していきます。

同意書の役割

交通事故の原則として、受けた被害を立証しなければ補償を受けられないというものがあります。いくら被害者が「ケガをした」と言っても、「どのようなケガをしたのか」ということを証明しなければ保険会社は補償してくれません。

被害者のケガを証明するのは医師の診断ですが、ケガの情報は個人情報にあたります。そのため、相手が保険会社であっても医療機関側は被害者の同意なしに診療情報を提供できません。ずっと同意書を提出しないでいると、保険会社は治療費などの補償をしてくれないので注意が必要です。

被害者は同意書を返送することで、医療機関側が保険会社に対して直接診療情報を提供する流れとなります。保険会社側は治療費を補償する根拠がなければ支払義務がないので、同意書はすぐ返送して大丈夫です。

保険会社によって同意書の有効期限を定めていることが多く、3ヶ月や6ヶ月とバラつきがあります。治療期間が長期になれば複数回にわたり同意書を送付してきますが、基本的に全て返送して問題ありません。

同意書を返送しなかった場合

前述した通り、原則的に同意書はすぐ保険会社に返送するべきです。しかし、なかなか同意書を保険会社に返送しない被害者もいます。なかには「治療期間を長くするために同意書をギリギリまで出さない」という考えを持つ被害者がまれにいますが、このやり方は避けた方がいいです。

例えば、通院6ヶ月目に同意書を提出した場合、6ヶ月分の治療費や慰謝料が補償されると考えてしまいがちですが、これは大きな間違いです。

交通事故の治療期間を決めるとき、医師の診断や被害者の訴える症状だけでなく「事故発生状況」も審査の一つになります。低速で発生した交通事故などは「2・3ヶ月程度で完治するはず」と判断されやすく、「長期で治療をする根拠がない」と判断された場合は注意が必要です。

このような場合、たとえ6ヶ月の通院を実際に継続していても、遡って治療費を拒否される可能性があります。「3ヶ月目までは補償するけど、それ以降は一切補償はしません」という対応を保険会社に取られたとき、残り3ヶ月分の治療費は被害者の自己負担となる可能性が高いです。

明確に治療が必要な根拠を提示できればいいのですが、それができなかった場合は結果を覆すことは困難になります。このようなことから、同意書を提出しないことや返送する時期を遅らせるということは避けた方が無難と言えるでしょう。

同意書を返送するリスク

ただし、同意書を返送するときに気をつけるべきポイントがあります。同意書を提出した時点で保険担当者は医療機関へアプローチすることができます。そのため、診療情報の提供の同意を確認した保険担当者は、医療機関に対して治療打ち切りを働きかけることが可能です。

交通事故に関する知識がない医師は、保険担当者から治療打ち切りを迫られるとすぐに応じることがあります。このようなことから、ケガが完治していない被害者は医療機関に対して「まだ通院を継続したい」という意思を診察のたびに伝えるようにしましょう。

また「既往歴」といって、事故以前にケガをしていたり、何かしらの疾患を抱えていた場合も注意が必要です。例えば、もともと首にヘルニアを抱えていて通院していたときに、交通事故でむち打ちを発症したときです。

このときは保険会社が「もともと首を痛めていたから事故で症状が悪化したわけではない」と主張してくる可能性があります。実際、事故によって悪化したかどうかを立証することが難しい場面が多いので、医師に「事故前と違う症状」を具体的に伝えておくことが重要です。

事故で負ったケガなのに「現在の症状は既往症が原因だから治療費の一部は補償できない」という主張が認められてしまうと、「被害者も自己負担すべき部分がある」と判断されます。このときは補償金から10%〜20%、もしくはそれ以上の金額が減額されるリスクが出てきます。

ただし既往歴があったとしても、重度な症状でなければ補償額が減額されないことが多いです。そのため、「事故で悪化した症状」があれば、必ず医師に伝えておきましょう。

整骨院で治療をする際に同意書を要求された場合

交通事故でケガを負った場合、骨に異常のない「むち打ち」や「腰の捻挫」などであれば、整骨院に通院することを希望する人もいます。整骨院へ通院しても問題なく治療費などは補償されますが、保険会社から「整骨院に行くなら医師から同意書を取得してください」と言われることがあります。

これは前述した「個人情報を提供することに同意する」という意味ではなく、医師が「被害者が整骨院で治療をすることに同意します」という内容です。法律上、整骨院での治療費は補償されることになっていますし、実際のところ医師の同意書がなくても整骨院へ通院できる例はたくさんあります。

整骨院への通院を拒否する医師が大多数

ではなぜ、整骨院へ通院するのに医師から同意書を取り付けるよう保険会社は要求するのでしょうか。それは、整骨院を嫌っている医師が多いことが挙げられます。基本的に整骨院の先生よりも医師の方が社会的地位は高いです。そのため、被害者が整骨院にも通院したいという意思を伝えると気分を害す医師が大多数です。

なかには「整骨院へ行くなら今すぐ治療を打ち切る」「整骨院に通院するなら今後の診断は一切しない」という対応を取る医師もいるので、整骨院に通院したいことを伝える場合は注意が必要になります。

実は、保険会社が医師の同意書を要求する理由はここにあります。被害者への補償額が大きくなるほど担当者の成績が下がるので、医師から治療を打ち切ってくれた方が都合がいいのです。では医師の同意なしに整骨院へ通院した場合、治療費などは補償されるのでしょうか。

現状では医師の同意なしに整骨院へ通院した場合、治療費や慰謝料などを拒否される可能性が非常に高いです。たとえ整骨院への通院が法律上認められていても、医師の同意がなければ整骨院での治療費を否定されることは過去の裁判例から見て明らかです。

このようなことから整骨院へ通院する際に医師の同意書を要求された場合、しっかりと書面でもらわなくてはなりません。もし、担当している医師が同意書に対して難色を示した場合は、「そのまま整形外科だけに通院する」もしくは「整骨院を認めてくれる整形外科に転院する」のどちらかを選択する形になります。

整骨院には診断権がない

ケガをした人の診断をできるのは医師のみなっていますが、整骨院の先生は「柔道整復師」という資格になるため診断権がありません。このようなことから整骨院では「治療」ではなく「医業類似行為」という扱いになっています。要は、「治療行為に似たもの」ということです。

もし、交通事故のあと整骨院に通院できたとしても必ず整形外科も定期的に通院しましょう。数ヶ月経過してもまだケガが回復しなかったとき、治療継続の根拠を示せるのは医師のみです。そのため整骨院だけに通院していると、保険会社から治療終了の交渉がきたときに、被害者は簡単に通院を打ち切られてしまいます。

整骨院では治療継続が必要な根拠を示せないので、整骨院メインで通院する場合でも1〜2週に1回程度は整形外科で受診しましょう。そこで現在の症状を明確に伝え、今後の治療の必要性を伝えておくことが、適切な通院期間を確保するために重要なことです。

同意書はすぐ返送すべき

整形外科だけなく整骨院など、複数の医療機関に通院する場合は、それぞれの医療機関に対する同意書が必要です。そのため、保険会社から同意書が届いたらすぐに返送するようにしましょう。

ただし、同意書は被害者への補償手続きを円滑するために必要ですが、通院先の医療機関の対応が重要になってきます。医療機関側が保険会社から治療打ち切りの圧力を掛けられたとき、素直に応じないように被害者からも伝えておく必要があります。

病院や整骨院の先生が信頼できない場合は、同意書を出す前に「現在の症状を具体的に伝える」「完治するまでしっかり治療をしたい意思を伝える」ということを徹底しておきましょう。