弁護士でも法律自体は変えられない

交通事故の補償に関して、過失割合・通院期間・慰謝料などで保険会社とトラブルになることが多くあります。交通事故によるさまざまなトラブルを解決するには弁護士の力が必要不可欠です。しかし、弁護士に依頼したからといって全て上手くいくわけではありません。

基本的に弁護士は過去の裁判例などをもとにして「法律のなかでいかに被害者の要望を達成できるか」を考えます。しかし、「優秀な弁護士に依頼すれば保険会社の納得のいかない提案を全て覆せる」と考えている人がいるので注意が必要です。

いくら優秀な弁護士であっても法律に反した結果を出すことは不可能です。それは過去の裁判例から、ある程度結果が決まっているからです。たとえ理不尽な結果になりそうでも、根拠や証拠がなければ覆すことが難しいこともあります。

ここでは、弁護士に依頼しても思い通りにいかないケースについて解説していきます。

後遺障害が残ったとしても全て等級認定されるわけではない

交通事故によるケガが治り切らなかったとき、「後遺障害」として申請することができます。1~14級ある等級のどれかに認定されると後遺障害慰謝料が発生します。ただし、事故の障害で治らなかったケガの全てに認定されるわけではなく、それぞれの等級で決められた基準に該当しなくては後遺障害として認定されません。

例えば、むち打ちの症状が治らなかった場合、後遺障害として認定されるには「局部の神経症状を残すもの」という基準があります。これは、腕から手にかけて発生したシビレが回復しなかった症状のことです。痛みや頭痛などの「自覚症状」だけで後遺障害が認定されることはありません。

後遺障害として認定されるにはレントゲン写真やMRIなどの画像で、他人が客観的にみて判断できる状態であることが重要です。

しかし、後遺障害が残ったという根拠を示す材料がないにもかかわらず、弁護士に依頼すれば等級認定されると勘違いしている人がいます。優秀な弁護士であっても根拠がなければ後遺障害を立証することは難しいのです。

過失割合を覆すには動画がなければ難しい

交通事故では発生状況によって「過失割合」というものを出します。停車時に追突被害に遭った場合などの過失はありませんが、交通事故の発生状況によっては双方に過失が発生することがあります。

このとき、過失割合に納得がいかなくても、ドライブレコーダーなどの動画や被害者に有利な目撃証言がなければ、過失を覆せないことも珍しくありません。よくあるケースとしては、加害者が事故状況に関する証言を変えてきます。すなわち、加害者自身が有利になるようなウソの証言をするのです。

例えば加害者の証言として、「前(被害者)の車が急ブレーキをかけ、止まりきれなかったから追突してしまった」「相手(被害者)が信号を無視して激突してきた」などがあります。加害者の不注意によって発生した事故では、目撃者がいたり、ドライブレコーダーによる動画があったりすれば加害者のウソは通じません。

しかし、目撃者の証言や動画がなければトラブルになることが大半です。証拠がなければ、基本的に事故を起こした者同士の証言をもとに過失割合をだしていきます。ブレーキの跡、車やバイクの傷などで、加害者のスピードの出しすぎなど事故の発生状況はある程度わかります。

ただ、細かい状況などは証言でしか判断することができません。そのため、加害者がウソの証言をすることによって、被害者が納得できない過失割合で決定することもあります。

過失割合に納得がいかない場合、弁護士に依頼することで保険会社と交渉をしてくれます。しかし事故状況を示す根拠や動画がなければ、いくら弁護士であっても、被害者の納得のいく過失割合に覆すことは困難です。

通院慰謝料の額はある程度決まっている

また、通院慰謝料の額は「通院期間」「通院日数」をもとに割り出されるため、ある程度決まっています。通院期間が長かったり、通院日数が多かったりすればケガによる精神的苦痛が大きかったとされて慰謝料が増える仕組みです。

慰謝料は「自賠責保険基準」「任意保険基準」「弁護士基準」の3つの基準があり、それぞれ金額が異なります。交通事故の慰謝料の算定には次のような計算式があります。

自賠責保険基準は「国が補償する最低限度の金額」となっています。具体的な通院慰謝料の計算方法は「通院期間×4200円」「(通院日数×2)×4200円」の2つがあります。2つの計算方法を行い、少ない額の方が自賠責保険基準の慰謝料として採用されます。

少しややこしいですが、「2日に1回以上の通院実績があれば満額の慰謝料」と考えましょう。

任意保険基準は原則非公開とされておりますが、ほぼ自賠責保険基準と同じ額の慰謝料となっています。

3つある慰謝料の基準で最も高いのが弁護士基準です。交通事故の制度では自賠責保険が「最低限の補償」となっていますが、弁護士であれば「妥当な金額」まで増額交渉をしていいというルールがあります。

おおよその目安でいいますと、6ヶ月しっかり通院していれば自賠責保険基準で約70万円の慰謝料が発生し、弁護士が示談交渉することで約80〜90万円まで増額が可能です。

後遺障害慰謝料について

後遺障害として認定されると通常の慰謝料に加えて「後遺障害慰謝料」というものが発生します。後遺障害の等級で最も症状が軽いとされる14級の認定では、慰謝料は75万円が支払われます。しかし弁護士が示談交渉を行えば、110万円まで慰謝料を増額することが可能です。

前述したように、通院慰謝料も後遺障害慰謝料も増額の相場というのはある程度決まっています。しかし、中には「交通事故に強い弁護士に依頼すれば、自分が納得いく金額まで増額してくれる」と勘違いしている人がいます。どんなに優秀な弁護士であっても決められた基準を大きく超えた金額に増額することはできません。

例えば、「後遺障害が認定されなかったけど、痛みによる苦痛が大きいから通院慰謝料が150万円でなければ納得いかない」というものです。これは被害者の苦痛の程度による通院慰謝料の提示ですが、なにも証明するものはありませんこれでは弁護士は慰謝料を増額しようにも動くことはできないのです。

このように被害者本人の金銭感覚は関係なく、弁護士でも慰謝料を増額できる範囲に上限があることを理解しておきましょう。

優良弁護士を見極めるポイント

優秀な弁護士でも全ての案件で過失割合や慰謝料を含めた補償額を、被害者有利に進めることは不可能です。

ただし、交通事故に精通している弁護士であれば、法律の範囲内で被害者の意向に沿った交渉をしてくれます。過去の判例をもとに、できるだけ通院期間を延ばすように交渉してくれたり、慰謝料を上限までアップさせようとしてくれます。

交通事故に詳しくない弁護士や怠慢な弁護士に依頼してしまうと、満足な補償額を得られず被害者は泣き寝入りしてしまう危険性が高いです。このような弁護士を代理人にすることで、相場よりも低い補償額になってしまったり、完全に治り切っていない短い通院期間で治療が終わってしまったりする可能性があるので注意が必要です。

全て被害者の思い通りにはならなくても、多くの判例を知っている弁護士であれば、制度のなかで「どのようにしたら最大限の補償を受けられるのか」という手段を心得ています。

もし交通事故で納得のいかない事態に陥った場合は、弁護士に依頼をして法律の範囲内で、できるだけ有利な補償を受ける方向にシフトした方が賢明です。

弁護士費用について

弁護士費用と聞くと高額なイメージがあるのが一般的です。しかし、弁護士費用が全くかからずに依頼できる方法があります。

まず、交通事故被害に遭ってしまったときは、自分が加入している任意保険を確認しましょう。

このとき「弁護士費用特約」というプランに加入していれば、保険会社が弁護士費用を300万円まで補償してくれる優れた特約となっています。

もし被害者本人が弁護士費用特約に加入していなくても、被害者の家族が弁護士費用特約に加入していれば使えることが多いです(※保険会社によって適用範囲が異なります)。

このように弁護士費用特約は自分が自動車保険に加入していなくても使える可能性があるため、この特約を使ったとしても等級が変わらないのでリスクは全くありません。もし弁護士費用特約に加入しているようであれば、すぐにでも使うべき特約といえます。

依頼した直後から、弁護士が代理人として被害者の代わりに保険会社と交渉してくれるため、さまざまな補償トラブルに巻き込まれる心配はなくなります。そのため事故直後、精神的に安心でき治療に専念できる環境となります。

もし仮に、「弁護士費用特約に加入していない」といっても心配する必要はありません。「着手金なし」「完全成功報酬」で対応してくれる弁護士事務所であれば、被害者にリスクはありません。

最初の相談は無料で受け付けてくれる弁護士事務所も多いので、交通事故でトラブルがあればそちらでアドバイスをもらうようにしましょう。

弁護士に依頼した場合のメリットや今後の対応方法について聞いてみるといいです。

後悔や泣き寝入りなどをしないで済むように、賢い選択を行い交通事故対応を心掛けることが大切です。